緑の季節【第二部】
日が暮れ、部屋の明かりは点けたが、お腹も鳴り始めた。
(忘れられているかな・・)
と、玄関の鍵を開ける音がした。
「ただいまー」
ふたりの笑顔はともに明るかった。
「さてと、お腹も空いたけど、出ようか。着替えるからちょっと待ってね」
覚士は、手早く着替えると、自分のシャツとスエットを着たままの沙耶香を連れ出した。
マンション前に自動車も移動してあり、沙耶香を乗せるとすぐに発車した。
(そんなにお邪魔なのかな・・私)
うつむきかげんに沙耶香は車内でじっとしていた。
「元気ないけど、まだ痛む?これ適当に好きなものを食べて。どこか店に入れると良かったけど我慢してね」
そう言いながら、後部座席に手を伸ばし、コンビニ袋を沙耶香の膝の上に渡した。
袋の中は、おにぎりや調理パン、スナック菓子まで入っていた。
ますます、自分の存在を疎(うと)ましく思われているのではないかと、沙耶香は、それらを食べる気にはなれなかった。
「僕も食べようかな。すみませんが、鮭のおにぎりを出してくれませんか」
沙耶香は言われるままに袋から出して覚士の前に出した。
「はいどうも。ってできれば包みは取って欲しいな」
沙耶香は再び、海苔で巻いたおにぎりを手渡した。
「ありがとう。沙耶ちゃんは食べないの?ん?」
「真壁さん、今朝どうしてあんなことしたの?おでこにキスした」
「どうして・・って、したかったから。気にしてたんだ。ごめん」
(ごめんって何よ)
沙耶香は、ラジオのスイッチを入れると無言のまま助手席でじっと座っていた。