緑の季節【第二部】
少し寝不足な覚士は、目覚まし時計に起こされて目覚めた。
出かける仕度もほぼ済んだ頃、沙耶香が声をかけた。
「おはようございます」
「おはよう。今日はここでゆっくりしてていいから、帰ったら送るよ」
覚士は、沙耶香のおでこに軽く唇を当てた。
「行ってきます」
覚士は、振り返ることなく扉を出て行った。
外から施錠をする音がした。
「いってらっしゃい」
つぶやくように沙耶香は言葉を口にしたが、聞こえることはなかった。
覚士の唇の感触が残る額を指先で触れた。
(これって、ファーストキッス)
ゆっくり洗面所へと向かった沙耶香は、カウンターテーブルの上にあるメモと菓子パンと鍵を見つけた。
〜無理をしないで気楽に過ごしてください
飲み物は冷蔵庫の中のものをどうぞ。でもお酒はダメだよ
一応鍵も置いておくけど、待っていてください〜
沙耶香は、覚士の帰りを待ちながら過ごした。
動きの不自由さに加えて、もののある場所すらわからない部屋で過ごす時間は長く感じた。