緑の季節【第二部】
戻ってきた沙耶香はリビングの真ん中で腕を組んで立っている覚士を見た。
「今夜は彼女が泊まっていくとして、どうやって、寝ようかな。部屋はここか、そっちだけど、隣はほとんど荷物部屋だし、使うには片付けがなー。僕はここで寝ることが多いけど、一緒でもいいだろうか。よし。今夜は、狼は封印するから安心してよ」
沙耶香にやっと笑顔が戻った。
「このクッション貸して頂いたらここでいいです。ぬいぐるみでも転がってると思って過ごしてくだされば」
「あっ僕、ぬいぐるみ抱っこして寝るの好きだから」
「え・・」ふたりの間の空気が一瞬固まったような「ま」があった。
部屋の真ん中でお互いに毛布や布団に包まって過ごすことになった。
ふたりの話は、覚士は来年、元会社へ戻ること。里実のこと。沙耶香の家族のこと。
学校のこと。聞かれることも聞かれないことも滑らかに言葉に変わっていった。
「沙耶香も地元へ帰ることにする。ほんとは・・ほんとは真壁さんがここに居るなら居たかったの」
「・・沙耶ちゃん」
「あちらで夏に訪問した企業からもいい返事貰っていたんだけど、ずっと迷ってた。帰ろうか、どうするか」
「そろそろ電気消すよ」
覚士は、部屋の明かりを間接照明に変えた。
薄明かりの中、覚士を見つめる沙耶香の瞳がくっきりとしている。
「いいよ」と沙耶香は小さく言った。
覚士は、人差し指を沙耶香のおでこに当てると、笑みを見せた。
「今日は、いろいろあったからね。おやすみ」
「おやすみなさい」
ふたりは、言葉のないまま眠れない時を過ごしていたが、しばらくすると沙耶香の溜め息をつき、体を起こした。
覚士は明かりをつけた。
「どうした?」
「ちょっと足が痛くなってきたから薬飲もうかなって。起こしちゃったね」
沙耶香が鎮静剤を飲むための水を用意してやると布団に戻った覚士だが、沙耶香の様子が
気に掛かり、なかなか寝つかれなかった。
しばらくして薬を飲んだ沙耶香から、寝息が聞こえた。
覚士もいつしか眠っていた。