緑の季節【第二部】
店を出ると日差しはまだ暑い。
駐車場に停めた自動車も暑く、ドアや窓を開放した。
「しばらく暑いよ。大丈夫?」
車に乗ったふたりは、熱いシートを我慢しながら、窓を全開にしたまま走り始めた。
窓から入る自然の風は気持ち良かった。
沙耶香も火照る顔を外に向け、全面で風を感じているようだった。
「さて、これからどうしますか?このまま走りますか?」
「はい。できればもう少しドライブしていい?」
「了解」
街は、連休の終盤らしく、行き交う車も多かった。
停車することも多くなってきたので車内もエアコンへと切り替えた。
「やっと涼しくなってきたね。気分悪くない?」
「うん、大丈夫。危ない味の意味がわかりました。口当たりがいいからと飲み過ぎになるよってことですね。これから気をつけまーす」
「ここにもう狼が居ますよ」
「えー。違う。」と沙耶香は明るく笑った。
そんな沙耶香の頭を覚士はポンと手を置くように叩いた。
「昼間っから赤い顔した女の子を放り出していけないのでこのまま送って行くから、酔いを醒まして」
沙耶香は、頷いた。
道を2度ほど迷ったが、ナビの助けもあって沙耶香の住まい近くへと辿り着いた。
「今日は付き合ってくれてありがとう」
走り始めた車を手を振って見送っているのがバックミラーに映っていた。
(これでもう会う口実も理由も無くなったな)
覚士は今まで横に感じたぬくもりを少し愛おしく感じる自分を意識した。
マンションへの帰り道の渋滞も余韻を楽しむには悪くなかった。
だが、着いた頃はやや日も傾きかけていた。
覚士は、部屋に上がると、シャワーを浴びた。ほとんど水に近いぬるい湯が火照った体と冷静さを失いそうな頭を冷やした。
しばらくして小腹が空いたが、ベッドに早めにもぐり込んだ。
その日は沙耶香からのメールは届かなかった。