緑の季節【第二部】
ふたりが店内へ入ると、パリッと糊のきいた白いシャツに黒いズボンと黒いショートエプロンを着たウエイターが出迎えた。
「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか」
「まかべです」
「まかべ様、おふたりですね。どうぞこちらへ」
案内された席は、窓際の店内の雰囲気にあったしきりのある予約席だった。
ウエイターは、まず沙耶香の椅子を引いて座らせ、続いて覚士にも同様に勧めた。
「コースはおまかせコースになっておりますが、何か不都合な食材などございますか?」
「いえ僕は大丈夫です。君は?」
「大丈夫です」
「かしこまりました」
ウエイターの応対は、爽やかとはいえ、ふたりを少し緊張させた。
というのも、彼が去った後の沙耶香の肩が緩やかに下がったようにみえた。
「ふう、この前のファミレスとやっぱり違うね」とクスッと沙耶香は微笑んだ。
覚士も、「食べることには変わりない。気楽に食べようね」と笑顔になった。
食前酒を沙耶香だけ少し飲んだ。
「飲むことあるの?」
「ううん、ほとんどない。成人祝いに飲んだけど、美味しいって思わなかったから。でも、これ少し甘くて美味しい」
「それは、危ない酒の味だ」
「どうして?」
覚士は、それに答えるでもなく頷いた。
やがて、料理のコースがふたりに丁度いいタイミングで運ばれてきては、ふたりは味や
盛り付けを語らいながら食した。
最後のデザートの皿にフォークを置いた沙耶香は、結局、全部飲んでしまった食前酒に
頬が赤らんでいた。
「美味しかった。ご馳走様」
覚士は、チケットをカウンターに差し出すとサービス券を受け取った。