緑の季節【第二部】
沙耶香との約束の土曜日がきた。
昨夜、同僚と飲んだ酒が残っているわけではないが、仕事の疲労をやや感じる。
飲むことは予定していないので自動車で出かけることにした。
途中、ドラッグストアでドリンク剤を購入して飲んだ。
待ち合わせの場所は、あらかじめメールをしてあったが、その時にもう一度メールをした。
返信は、すぐに戻ってきた。
沙耶香と会うのは、1週間振りだがずっと待ち望んだ日が来たような、妙にわくわく心躍る感覚を覚士は否めなかった。
待ち合わせ場所に沙耶香の姿を見つけた。
車を歩道に沿って路肩に停車させると、気づいた沙耶香が小走りで近づいてきた。
「こんにちは」
「こんにちは」
覚士も車を降りた。
覚士の目前に現れた沙耶香は、先日のジーンズに腰の隠れるヒラヒラしたカジュアルな
装いと違って、ワンピースにレースのボレロを羽織った清楚な服装だった。
一瞬、見とれてしまった覚士に沙耶香はすまして笑った。
「私だって少しは化けますよ。変ですか、これ?」
「・・いや」
言葉のないままに助手席のドアを開けると、沙耶香は、エスコートに従って乗り込んだ。
覚士も急いで乗り込むと、静かに車を走らせた。
「私で良かったですか、誘うの。沙耶香は嬉しいけど」
沙耶香はハンドバッグの紐を指に絡ませながら正面を向いていた。
「今日は、アヒル付いてないね」
「さすがに今日はちょっと・・。でも携帯のストラップには付いてますよ」
20分ほど、車を走らせると、目的の店に着いた。
「何とか、迷わずに着きました」