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緑の季節【第二部】

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通勤の時に通る道も 改めて周りを見ながら歩いてみると、なかなか面白かった。
色とりどりの和菓子が並ぶ店や和風な小物を売っている店。
日常と非日常の店が点在する川沿いの道を抜けると、国道の広い通りに出る。
街の中心とも感じるが、この格子状に延びる通りにはそれぞれに かつて都だった風情を残す洒落た名がついている。
その広い通りを観光客の波に押されるように横断すると まだ痩せている桜の並木が続く敷石できれいに整備された舗道を歩いた。
その通りの先は周りを圧倒するような重厚な構えを今も残す建造物に続いている。
石の階段を上っていくと大きなお社と広い敷地の「法然上人」縁(ゆかり)の寺院がある。
風に運ばれて来る御香の香りは胸の奥の優しい部分に染みてくる。
(「新しい人生を歩み始めて下さい」・・・か)
里実との生活に終止符を打てるのか。まだ自身が持てない気持ちばかりが覚士の胸中を
埋めていく。

(さとみ・・僕の心を見てるかい。新しい人生なんて そう簡単に切り替えられるわけ
ないよ)

覚士は、寺院の敷地の半ば辺りで、そびえ建つ本堂を見上げた。
とくに寺院に興味があるわけではなかったが落ち着く感覚になるのはこの国に生まれた
せいだろうか。
わずかな時間をそこで過ごしたが散歩の続きを始めた。
舗道では肩がぶつかるほど人とすれ違ったが誰も自分を知るものはいない。
そんな「ひとり」にも少し慣れてきた。

作品名:緑の季節【第二部】 作家名:甜茶