緑の季節【第二部】
それに気づくわけでもなく、覚士は書類の必要事項を記入して印鑑を押していた。
記入した内容を確認しながら、覚士は席を立ち、里山の所へ差し出した。
「これでいいですか」
「はい、じゃあ、総務へ出して来ます」
里山は、席を立って覚士の横をすり抜けて事務所を出て行った。
ふと、下を見ると軽く丸められた紙片が落ちていた。
覚士は、何気なく拾いあげると文字が書かれていた。
(きっと、里山さんが落としたメモかな)と、里山の机の上に置いて、席に戻った。
しばらくして、総務から鍵を受け取り戻って来た里山は、しきりに何かを気にするように制服を触っていた。
「はい。ではコレお渡ししますね。あの、紙、落ちていませんでしたか?」
「やっぱり、里山さんのメモだったんですね。拾って机に置いておきましたよ」
「中は見ましたか」
「いえ」
里山は、肩で大きく深呼吸をすると席へと向き直った。
「ねえ、里山さんって僕の携帯に連絡入れてくれたことありましたか?」
「一度」
「誰のかわからなかった履歴があって、気になっていたんです。で、何でしたか?って
いまさらですが」
「先日、携帯電話を濡らしたり、落としたりしたので繋がるか心配で」
「そう。んー、それだけが理由ではないですけど、先日帰ったときに新しいのに買い変えましたからもう大丈夫ですよ」
「すみませんでした」