緑の季節【第二部】
初めて通る道もあり、ふたりでナビのモニターを頼りに沙耶香の住む所まで辿り着いた。
車から降りる頃、沙耶香は携帯電話を取り出し「ここでかけてもいいですか」と言ってどこかに電話をかけた。
「もしもし、伯母ちゃん。沙耶香です。今こちらに着きました。真壁さんに近くまで送ってもらったの。はい。うん。はい。真壁さん、伯母が代わってって」
沙耶香から手渡された電話は、少し甘い香りがした。
「はい。無事にお連れ致しました。僕も退屈せずに過ごせて助かりました。では、さようなら。失礼します」
覚士は、携帯電話を沙耶香に渡すと トランクから荷物を下ろした。
「じゃあ」
沙耶香は頭を下げるとそのまま振り向きもしないまま歩いて行ってしまった。
(今どきの子なのかな。あっけな)
覚士は、苦笑いをしながら車に乗るとマンションへと向かった。
マンションの駐車場の契約番号に車を停めて、部屋へとあがった。
1週間ほど空けただけだが、空気が重かった。
窓を開け放つと網戸にいた蝉が飛び立った。