緑の季節【第二部】
「・・違います」
少し声が低くなった。
「いませんから。これは・・・。これは伯母から。伯母のを成人のお祝いに貰ったんです」
沙耶香はそう言うと運転している覚士の前に見せた。
「そうなんだ。あれさっき19って言わなかったかな。年齢詐称ですか」
「きゃっ、しまった」
「嘘つきさんは、降りて貰おうかな」
沙耶香は、両手を合わせて覚士を見た。
「『さんぽみち』のママとは仲がいいんだね。伯母と姪なんだよね」
「はい。私が中学の頃、母がちょっと長く入院することになった時、伯母に預けられたの。高校受験もあったし、保護者会にも来てくれたの。話もしやすくって好きな子のことまで相談しちゃったり。だから大好き。もうひとりの母親みたいな人なの」
「そうなんだ」
沙耶香は、伯母のことが本当に好きらしく、話終えたあとも口元に笑みを残して満足そうな顔をしていた。
「でも、学生でしょ。沙耶香さん」
「うん、学生だけど勝手に残ってるだけっていうか。でも留年じゃないですよ。研究生制度みたいなやつで2年目・・。でも来年は帰ろうかなって、就活に来たんですけどね」
「ふむ。3歳詐称したわけだ。これは重罪だな」
「えっ、そちらの話なの?でも違う、21歳だもん。早生まれだから来年22歳になるの」
「2つも3つもさほど変わらないでしょ」
「変わる!」
覚士は10歳以上も年下の女の子とむきになってはしゃいでいる自分が嫌じゃなかった。