緑の季節【第二部】
夕飯を済ませ、明日のために少し早めに布団に横になったが、時間が早いのか、それとも嬉しい緊張のせいなのか、なかなか眠れなかった。
大きく深呼吸ともため息ともつかぬ息をつくと布団から起き上がり、キッチンへ行った。冷蔵庫を開け、夕飯の時には飲まなかった缶ビールを選んだ。
カチッシュポッ。
小気味良い音とともに泡が吹き出した。
慌てて口を缶に近づけた。
リビングは消灯していたが母親が風呂に入っているようだ。
風呂場から水の音が聞こえてくる。
両親の部屋からは父親のいびきが聞こえていた。
覚士は、空き缶をシンクに置くと部屋に戻り、布団に横たわった。
暗い天井を眺めながら明日のことを考えていた。
両親には、女の子を乗せて帰ることは伝えてはいない。
要らぬ心配をかけたくないことと、要らぬ詮索もされたくなかった。
アルコールとエアコンの心地よさにいつの間にか眠っていた。
朝、目が覚めると時計は7時になろうとしていた。
(6時半にかけたはずなのに)
少し慌てて起き上がると、洗面や身支度をした。
キッチンからいい匂いがしている。
「おはよう」
「おはよう。もう出るの?」
「朝飯、用意してくれたんだ。じゃあ食べてくよ。ご飯は・・いいや」
覚士は、席に座るとハムエッグとサラダを食べ始めた。
「ご馳走様。美味しかった。ゆっくりできなくて悪いけど、もう出るよ」
「お父さーん、覚士もう出るって」
「そうか、気をつけて行けよ」
「親父たちも」
覚士は両親に見送られ実家を出発した。
帰省したときは、荷物も暑さもうっとおしく感じていたが、今、再び帰ることには面倒を感じていなかった。