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緑の季節【第二部】

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5日めの朝は少し寝坊をした。
夏の日差しがカーテンを突き抜けているかのように部屋を明るく照らしていた。
朝食に昨日の残りの惣菜を食べると、ゴミをひとまとめに片付けた。
「もしもし、あっ、おふくろ。おはよう。明日帰るから。洗濯物頼んでいいかな。昼過ぎに行くよ」
覚士はシーツやピローカバー、持ち帰る必要のない衣類を紙袋に詰め込んだ。
布団はベランダにかけて 床を簡易フロアモップで拭いた。
せっかく冷えた冷蔵庫のコンセントも抜いた。
少しだけ干した布団を取り込むとベッドの上に畳んだまま置いた。
またしばらく、この部屋ともお別れだ。
ひとまわり部屋を見渡し確認して覚士は部屋を出た。
「行ってきます」

自動車に荷物や洗濯物、冷蔵庫にあったもの、ゴミ袋など積むと車を走らせた。
花屋の店の前で停車して、花束を買った。
お盆が近いせいか、菊やほうずきも多く並んでいたが、白いトルコキキョウやカスミソウと薄紫のスイトピーなどを花束にした。
墓地を訪れる人はまだ疎らだった。
里実の両親もまだ来ていなかったらしく、少し前に供えられたと思われる墓花があった。
覚士は、それらを取り去ると墓石や周りを洗い流した。
もう一度、手桶に水面をきらきらさせる水を汲んで来ると柄杓でゆっくりと墓石を潤した。
墓前に花束を置くとゆっくりと手を合わせ、目を閉じた。
しばらく、里実と語らうかのように無言のまま過ごした。
(い・い・よ)
覚士は、そんな里実の声が聞こえた気がした。

作品名:緑の季節【第二部】 作家名:甜茶