緑の季節【第二部】
翌日の午前中に、元会社を訪れた。
仕事の流れは、パソコンでの報告で問題はなかった。
3ヶ月前と特に変わった訳ではない社内を見回し、戻る日のことをふと思い浮かべていた。
ひとりの女性が覚士に軽く会釈しながら通り過ぎると、以前の覚士の事務机の所に腰掛けた。
「気になるー?」
後ろから事務の女の子に聞かれた。
「えっ、新しい方?」
「そう。派遣さんなんだけどね。水上さん」
綺麗とか、化粧がどうとかの外見よりも、パソコンのキータッチのしなやかな指先から
目が離せなかった。
「彼女パソコン得意なの?」
「ねえーすごいね。そうことをしていたらしいけど、書類なんてほとんどお願いされて
忙しそうよ」
「ふーん」
「感心してるけど、いつも報告入れてきた時、返信しているのは彼女よ。感心が関心に
変わった?」
事務の女の子に無邪気に冷やかされたが、さほど悪い気はしなかった。
その後、上司との今後の打ち合わせを行なったが、やはりまだ出向は終わるわけではなく引き続きの健闘を言われた。
用件を済ませると昼近くになっていた。
同僚と昼飯を近くの店で食べるとそのまま別れた。
覚士は自宅へ帰らず、実家の方へと車を走らせた。
途中、本屋と大型電気店と携帯電話取扱店へと立ち寄った。
本屋では仕事関連の書籍を探したが見つからなかった。
大型電気店では急に動かなくなった髭剃りを買い求めた。
携帯電話取扱店では、バイブレータでしか着信の確認のできない音の出なくなった電話を買い変える為だった。
(もしかして)
覚士は、発信者不明の電話番号のことを思い出した。
出向先の事務の女性が、お茶を溢したうえに慌てて床に放り出したのだ。
(気にして掛けてくれたのかな?戻ったら聞いてみよう)
いたい出費だったが、そろそろ機種も変えたいと思っていたのでいい機会と諦めた。
データは無事だったことに安堵した。