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ヴー・モウジーズ
ヴー・モウジーズ
novelistID. 494
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鳥の雛

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わたしを見つめる4つの目。
「ああ、おとうさん!」
あなたは何のために私に餌を運んでくださるのか。
私の体はすくすくと育つでしょう。
ええ、あなたのおかげによって。
その卓越した狩りの腕。
獲物を捕らえる強い爪。
誇らしくも澄んだ瞳。
そういうものに私は育てられていく。
あなたの自尊心によって私は大きくなるの。
私を誰に自慢なさるおつもり。
若い娘を誰にお披露目するおつもり。
そして誰に自慢げに微笑むのかしら。
私の娘は世界一美しいと、褒めてくださるのかしら。
その生命力の満ち溢れた羽ばたき。
精気に満ち満ちた躍動的な飛翔。
知っている。
知っているのよ。
私なんていなくても、
あなたは立派に一匹の雄雄しい鳥の中の鳥であると。
私一匹を満足に育てられなくとも、
あなたの賢さ、たくましさ、
そういったものに何一つ傷をつけることもできない。
私なんていなくても、
あなたという完成された個はどこまでも汚されたりしないこと。
「ああ、おとうさん。おかあさん!」
どうして私を育てるのですか
惰性。贖罪。見栄。
はかりしれない幸福。
そう、私ははかりしることができない。
あなたたちが私を通して、
感じているその幸せを。
あなたたちの、そのやさしい胸に宿っている幸福を。
それは恋人の蜜月より甘いかしら。
それは完成された生活の暖かかさかしら。
使命を果たした充足感かしら。
果たして。
鳥畜生ごときにそんなものがわかるのかしら。
私の親ごときに、そんなものがわかるのかしら。
こんなにも醜い私を生んだ親が、
そんなに高尚で高潔な存在なのかしら。
「ああ、おかあさん。おとうさん。」
すっかり羽根の生え揃った私は、
翼を広げ、手ほどきを受けて、
こうして巣立ちの時を迎えます。
誰より近くで、誰よりつぶさに。
あなたたちを見てきたけれども結局として、
あなたたちは私の美しい他人でしかなかったように。
今私を見送るその目は、
他人を見るような目つきでしかないのでしょうか。
とんでもない化物を産んだものだと、
肩の荷が下りたと、
心から喜んでいるのでしょうか。
おそろしく責任のある任務から解放されたのだと。
美しい青。
清い風。
千切れる雲。
波打つ緑。
自由。
自由。
自由。
自由!
一人で飛んでいるのには、
あまりに広すぎるこの大空。
守ってくださる翼のない嵐の夜。
送る相手のいない花びらの美しさ。
寂しさのあまりにつがいを乞い。
世に二つとない美しい恋をして、
無二の伴侶に見初められて、
誰より幸せな夫婦となって、
そうして私は何を知るのですか。
子供に愛されていないというおそろしい孤独をですか。
繰り返される悲しみの連鎖を知るのですか。
「産んでくれなければ良かったのに!」
そう痛罵される心臓の痛みをですか。
欺瞞と虚飾の幸せを突き刺すような鋭い視線をですか。
それとも繰り返される歴史の整合性の中、
秩序に宿る神性をですか。
既知に安堵する自分の浅はかさですか。
それでも一つだけ、たった一つだけ、
そのおそろしい目に向かって言えることがあるとすれば。
「私の幸せは何一つ欺瞞でも、虚飾でもなく
私の喜びは私のものであり、
この世界の美しさだけは本当である。」
たったそれだけのことなのです。
私の美しく揃った羽根は、
私の美しくない心根に反して、
この世界を構成する美の一つなのです。
育った私の体は、
正しく他の生命への勝利の宣言であり、
ただしく、よく、うつくしいもの。
そういうもので私は構成されているのです。
それだけは、間違えようのない事実なのです。
「そして、私の悲しみや怒りも私だけのものなのです。
あなたが考えているように、
私とあなたは正しく他人であり、
決して寄り添うことはないのです。」
私が雛として見た景色と、
あなたのために用意した、
暖かく住み心地のいいこの巣からの眺めは、
まったく、まったく違うものなのですから。
私の羽根の色と、
私の歌声は、
お母さんのそれとは違い、
私の伴侶は、私のお父さんと同じではないのですから。
「だから」
一つだけ語ることができるのは、こういうことです。
「あなたはあなたの怒りを、悲しみを、
尊びなさい。
それはあなたの元にしかなく、あなただけのものです。
たとえ誰が私たちを同じものだと言おうとも、
私とあなたとの間には、決定的な差異があるのだから。
あなたは全身全霊で、
悲しみ、泣き、叫び、
怨んで、怨んで、怨んで、怨んでいいのです。
それはあなただけのものなのだから。」
あなたの喜びが、あなただけのものであるように。
小さな体からあふれ出してしまいそうな、
怨嗟、憧れ、戸惑い、卑屈、傲慢。
すべてがあなたを構成する一要素なのです。
私のそれが全て私のものであるように。
あなたに私の幸せがはかりしれないように、
私は貴方が浴びてゆく幸福を知ることなどできないのです。
私はただこの美しく卑小な世界を享受する魂と、
ただこの美しい世界を飛翔する翼とを、
あなたに授けることしかできないけれど、
まだまだ小さく、ちっぽけで、
この小さな世の中をうらんではやかましく鳴くだけの、
私の小さな雛に。
言わなくてはならないことがある。

私は、
ただこの美しく卑小な世界を享受する魂と、
ただこの美しい世界を飛翔する翼とを、
あなたに授けることしかできないのです。

さあ、飛んで。
作品名:鳥の雛 作家名:ヴー・モウジーズ