ハイビスカスに降る雪
健治は叫んだ。だが、どこにもユキの姿はなかった。健治は知らない。雪の結晶があるということは、たった今、雪が降ったばかりということを。
「ユキーッ!」
すると、どこからともなく、ユキの声が響いた。
「その雪は私のお礼の気持ちです。本当に楽しかった。それに、まだ人が温かくて、夢を持ち続ける存在だということがわかって嬉しかったわ。私も故郷に帰って頑張ってみます。健治も夢に向かって頑張って!」
健治は空を見上げた。空はどこまでも晴れ渡っている。すると、空からはらはらと粉雪が舞い落ちてきた。それは健治の掌の上に落ちては溶ける。
「ユキ、君は一体……」
この世に妖精などがいるかどうかは、健治にはわからない。ただ、ハイビスカスに降り積もった雪は既に溶け始め、その花を艶やかに濡らしていた。
(了)
作品名:ハイビスカスに降る雪 作家名:栗原 峰幸