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てっしゅう
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「忘れられない」 第三章 仁美の想い

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歩きながら話しかける仁美は少し痩せたように有紀は感じた。

「ええ、普通よ。時折裕美さんの事思い出すけど、ねえ、仁美さん少し痩せた?」
「解る?そうなの・・・食欲があまり無くて食べずに居たら、5キロほど痩せちゃった。まあ今が標準体重なのかも知れないけど」
「そうなの!無理しちゃイケないわね。時々美味しいものでも食べに出かけましょうよ、これからは」
「ええ、そうね。あなたとなら出かけられるから・・・ありがとう」

レストランに入って食事を済ませ、喫茶店でお茶を飲んで色んな事を話した。

「そうそう、裕美さんがいた部屋ね、新しい方が来られたのよ」
「そう!早いのね。どんな方なの?」
「うん、60前ぐらいの男性で一人暮らしのよう」
「へえ〜一人暮らしの男性なんだ・・・」
「確か・・・安田さんって言われたかなあ」

仁美の表情が変わった。

「安田・・・下の名前も聞いた?」
「うん、聴いたけど・・・忘れちゃった。何故?」
「夫の名前は安田って言うのよ。内川は私の旧姓。娘にもそう名乗らせていたから」
「・・・まさか!それは無いと思うよ。偶然過ぎる・・・」
「どんな感じの人だった?」
「背は170ぐらいかしら・・・白髪交じりで痩せ型の、そうそう右の目の下に傷のようなものがあった感じに記憶しているけど・・・」

仁美は大きくため息をついた。

「間違いないわ!夫よ。信じられない・・・こんな事があるなんて・・・」

有紀も衝撃だった。

「何か見えない力が安田さんをあの部屋に引き寄せたのかしら・・・あなたと引き合わせるために裕美さんが呼んだのかも知れない、って考えるのは酷?」
「・・・全く夫の事は頭に無かったから、いまさらっていう感じだけど、たとえ娘が願っていたことだとはいえ、縁りを戻すという気持は無いわ。裕美の事で頭はいっぱいなの・・・」
「気持は解るわ。でもね、これからずっと一人で生きてゆくのは大変よ。両親や親戚だって長くはないし。裕美さんが望んでいたように復縁することも考えたらどう?」
「簡単に言うのね・・・私たちを捨てて出て行った人なのよ、解る?その時の気持?」
「仁美さん、言ってたじゃない。自分にも気付かないところがあったかも知れないって・・・そう思えるのなら、やり直せるわよ。好きな人は一人しかいないって私はそう思えるから・・・」
「あなたはずっと好きでいるからそう感じられるのよ。裏切られたこと無いから・・・」
「ううん、明雄さんは一度結婚したのよ。裏切られたのよ。でも、私には好きな人だったの。何があっても好きな人だったの。彼がずっと幸せに暮らしていたとしても、私には一番好きな人なの。それは変わらなかったと思う。裕美さんの強い思いは結ばれない人との恋だったけど、だからと言って諦め切れるものでは無かったんじゃない?辛い事を言うけど・・・好きになると言うことは自分をごまかしてはいけない事だと思うの」

仁美は夫の事が好きだった。有紀に言われてはっきりとそう思う自分に気付かされた。悔しさや憎さを消してしまえば愛情だけが残る。もともと自分にあった感情だから・・・

「有紀さん、夫とは長い交際期間を経てやっと結婚したの。向うのご両親の反対や、身内の不幸なども重なってね。私は若かったから待っていられたけど、結婚したら直ぐ子供を欲しがって・・・彼は10歳上だったからね」
「そう、そんなに待ってたのね・・・好きだった証拠よ」
「そうね・・・今考えたらそうね。初めて好きになった人だったから・・・有紀さんと同じね。結婚したら今まで以上に仕事に打ち込むようになって、帰りも遅くなり、休みも仕事に出かけるようになって。一生懸命にしていたんだろうけど・・・淋しく感じたわ。贅沢なこと?」
「男の人ってそういう時期が必ずあるのよ。会社で期待されて、出世をしてゆくために家族が踏み絵にされるって言うこと」
「それって、男性社会の身勝手さじゃないの?私は許せない。そんな人は結婚しないほうが良いのよ。家族をほったらかしに出来る人が、人のために役立てるようなことが出来るはずが無い。それを知るべきよ・・・」
「一理あるわね。でもきっとご主人辛かったと思うわ。板挟みになって・・・仕事辞めたらあなたと裕美さんが路頭に迷うし、新しい仕事に変われる勇気も無かったと思うの」
「私だって頑張って働くわ。夫の収入の上に胡坐かいて楽したいなんて思わなかったし・・・話して欲しかったのよ、辛いなら辛いって・・・好きどうしなら隠さずに言って欲しかったの。それは有紀さんも同じように思うでしょう?」
「そうだけど、男の人ってそういうことを話すのは苦手だと思うわ。妻に対して弱音を吐くなんて、きっと簡単なことじゃないと思うしね。許せなかったことはあなたへの裏切りなんかじゃなく、彼の不足していた優しさなのよね?」
「・・・私は彼の親に反対されてもずっと一緒になる日を夢見ていたの。まだ十代だったし。大人の彼が頼れる存在だったし、優しいと信じていた。それなのに、お前はわがままだ!って言われ・・・俺が居ないとやっていけないだろう!とも言ったわ。何だか反論するのも悲しくなって、そんなふうに思われていたんだと知って、スーッと気持ちが萎えたの」
「ご主人もきっと仕事のストレスが溜まっていて売り言葉に買い言葉で言ってしまわれたのよ。出て行かれたのは残念だったけど・・・探さなかったの?」

仁美は少し間を空けて一度外に目をやってから有紀を見た。

「探す気力は出なかった。裕美もきっとお父さん帰ってくるから、待っていようって言ってくれたしね」
「連絡は取らなかったの?」
「携帯にね、娘から送信してもらっていたけど、返事はまだ帰れない!そればかりだったわ」
「どうしてなんでしょうね・・・何か思い当たらないの?」
「解らないわ・・・仕事上で何か問題があったのか、女性が居たかよね」
「浮気?そんな忙しい人が出来ることじゃないって!」
「解らないわよ、男なんてその気になれば寝る時間惜しむらしいから」
「考えすぎよ。そんなふうに思っちゃダメ。理由を今更聞いても許せる事じゃないかも知れないけど、逢ってみて話をしたらどう?」
「有紀さん・・・今は裕美の事で一杯なの。そんな気持ちになれない。何度も言うけど・・・」
「解ったわ。少し時間見て私が話すから。安田さんが本当にあなたの夫なら、どう考えているか聞いて知らせるわ。それならいいでしょ?」
「うん、有紀さんに任せる。あなたが一番私のことを考えてくれている人だから、今は。それより、あなたの彼の心配をしなきゃ!どうするの?」
「ええ、そうね。名古屋の森さんって言う知り合いに頼んでいるから返事待ちなの」
「じゃあ、返事が来たら名古屋に行くのね?」
「そのつもりよ。岡崎って言っていたかしら・・・」
「三河ね、時間合わせるから私も連れて行ってよ。お手伝いしたいの。今度は私が協力しなきゃ・・・ね?構わないでしょ?」
「仁美さん・・・ありがとう。仕事休んでいいの?」
「平気よ、もう一人になったんだもの。どうなってもやってゆけるし・・・」