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てっしゅう
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「忘れられない」 第三章 仁美の想い

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「これは、明雄さんの分よ。一人じゃ淋しいから付き合ってね。メリークリスマスそして来年はハッピークリスマスと言えますように・・・ずっとずっと大好きでいました。あなたがこの空の下で必ず私を待っているんだと信じて・・・夢をかなえて下さい、マリア様・・・」

携帯の着信音が鳴った。
「もしもし・・・仁美さん!どうされたのかって心配していたのですよ。もしもし・・・仁美さん?」
か細い声で何か話しているが聞き取りにくかった。
「仁美さん、ごめんなさいね。聞こえにくいの・・・有紀です、解りますか?」
「有紀さん・・・有紀さん・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・あなたの親切を無駄にしてしまって・・・」
「どういうことなの?仁美さん、話して・・・」

「裕美は・・・夕方、私が留守をしていた隙に・・・許して・・・」
もう泣くばかりで声にならなかった。ただならぬ雰囲気に有紀は動揺した。

「ゆっくりでいいのよ。落ち着いて話を聞かせて。裕美さんがどうされたの?」
「・・・家に戻ったら様子が変だったので・・・見たら、ぐったりとしていて・・・急いで救急車を呼んで・・・でも、前の時とは違って・・・もう息がなかったの・・・今し方戻らなくなってしまった・・・ごめんなさいね、あなたに勇気付けられたと思っていたのに・・・もう何もかも終わりになった」
「・・・仁美さん、どこにいるの?直ぐに行くから、待ってて!変な事考えないでよ!・・・枚方市民病院ね?わかったから・・・」

タクシーを呼んだ。30分ほどで病院へ着いた。駆け足で救急外来から訳を話して中へ入れてもらい、仁美と会った。

「仁美さん!大丈夫?」
「有紀さん、ありがとう・・・私はもうダメ・・・生きてゆけない・・・」
「しっかりなさい!母親でしょう!私が言うのもはばかられるけど、最後まで亡くなった裕美さんを守ってあげないとダメよ」
「少し泣かせて・・・あなたの胸で・・・ゴメンね」

しっかりと仁美を抱きしめた有紀は髪を撫で、背中を擦り、とめどなく流れ落ちる涙の冷たさをその肌に感じながら、自分も堪え切れなくなり、泣き出していた。静まり返っている病院の中で二人の泣き声は、クリスマスナイトには相応しくない響きをこだまさせていた。

「あなたのせいじゃないよ!仁美さん。運命だったのよ、そう思うしか気持が納まらないのよ。裕美さんは魂が幸せになるように呼び寄せられたの。きっとこうしている私たちを見て、笑っているわよ。やる事いっぱいあるし、お手伝いするから、頑張ろう!仁美さん・・・」

程なく泣き止んだ仁美は涙を拭って、有紀の顔を見上げて、
「あなたの言うとおりね・・・本当に素晴らしい友達と知り合えたわ。一人で生きてこられた強みね。私なんか・・・情けないって感じるわ」
「そんなこと無いよ。誰だって同じだから・・・私は強がっているだけ・・・さあ、手続きしたら戻りましょう」

必要な事を済ませて、警察の事情徴集も終わって、開放されたのは深夜になっていた。

翌朝内川の部屋に裕美は帰ってきた。丁寧に清められたもの言わない姿は可憐で憐れであったが、苦悩から開放されたその穏やかな表情に仁美は救いを感じていた。状況が通常ではなかったので身内だけの密葬とし、部屋に祭壇を飾り通夜と葬儀を営んだ。

有紀はずっと手伝いをして仁美を励まし、自分も励まされた。森夫婦と神戸で会って、明雄の居所を探す手伝いをしてくれると聞き、気持が高揚していた矢先に裕美の死が舞い込み、とても浮かれた気分になれなかった数日を過ごした。初七日も済ませ仁美は遺骨を自宅に持ち帰り仏壇に供えた。裕美の部屋は契約を解約し空室となった。

騒がしかった住人の噂話も消えて、何事もなかったかのように2003年が明けた。仁美にとって淋しい正月であったが、それは有紀にとっても同じであった。裕美の部屋を片付けるために4日から仁美はマンションに来ていた。有紀も手伝って翌5日にはすっかりと片付けが終わった。

「ねえ、有紀さん。何か想い出に差し上げたいのですけど、貰って頂けません?最後はあなたに心を開いていた裕美でしたから・・・」
「仁美さん・・・そんな大切なものを頂くなんて・・・母親のあなたが大切にしまって置かれるべきだわ」
「ううん、それもそうですけど、あなたとのご縁が裕美を救ってくれたんだし、是非にお願いしたいの・・・」
「はい・・・大切にさせて頂きます」

形見分けに裕美が大切にしていたあるものを有紀は貰った。それは、自分からそう願い出たものだった。
「仁美さん、頂けるのでしたら、あなた宛に書き残した遺書を書いたボールペンを下さい。ピンク色のそれです」
「そんなものでいいの?」
「はい、裕美さんに聞いたんです。大切なペンなの!って」
「知らないわ・・・そうだったの。普通のボールペンにしか見えないけど」

見かけはそうだった。しかし裕美にとって忘れられない好きだった彼からのプレゼントだったのだ。仁美は知らない。

有紀はそのボールペンが彼からのプレゼントだと知っていたが仁美には言わなかった。ただ裕美が大切にしている、と言っていたから欲しいのだと伝えた。

すっかりと片付いた裕美の部屋は明かりも消え、そこについ先月まで自分が遊びに行っていた記憶さえウソのように感じられた。仁美は大阪市内に住んでいるから頻繁には会えない。また有紀にとっていつものような暮らしが戻ってきた。朝はジョギングのために公園の外周を走り、昼間はジムに時々通い、夕方からは家に居る、という繰り返しである。

退職金の残りが少しあるからしばらくはいいけど、そろそろ働かないといけないと思い始めていた。

正月も明けて成人式も終わり暦が新しくなった記憶も薄れる頃、いつものようにジョギングから戻ってきて玄関を入ろうとすると、井戸端会議を始めていた数人の主婦に呼び止められた。

「ねえ、埜畑さん、おはようございます。ちょっとお話したいのですが、宜しいですか?」
「はい、おはようございます。なんでしょう?」
「内川さんのお部屋に今度引越しされてくる方ご存知かしら?」
「えっ?もう決まっているのですか?」
「そうらしいの、聞いた話ですけどね。何でも50代の男性らしいの?それもお一人だって言う噂よ。ねえねえ?興味ございません?埜畑さんにとって?」
「どうしてですか?」
「だって、おたく独身でらっしゃるのでしょう?だからね・・・もし素敵な男性だったら、チャンスじゃないかと思って。みんなで話していたんですよ」
「・・・興味がありませんの。一人が気楽ですから・・・では、失礼します」

その場を去った。なんという失礼な事を話しているのかと怒れてしまった。誰が引越ししてきても自分には関係がないし、興味も無いことは明白であるからだ。

気分を害して部屋に帰ると携帯に着信があった。名古屋の森からだった。

「あら、森さんから来てる・・・いい知らせかしら」開いてみた。