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てっしゅう
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「忘れられない」 第三章 仁美の想い

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「はい、同じマンションで仲良くしている親子さんとワインで乾杯する予定です。ちょっとしたことがきっかけで仲良くなったんです。お母様は私の二つ下、娘さんは20代前半ですね」
「へえ〜ご近所さんとですか・・・それもいいですね。今はあまり近所付き合いなさらない家庭が多いですからね。本当は恋人と過ごすのが一番なんでしょうがね、ハハハ・・・」
「あなた!下品よ、その笑い方・・・」

三人は顔を見合わせて再び笑った。

「さて、何から話そうかな・・・そうだ!有紀さんは湯沢の前にどちらかへ寄られてから来られたんでしたよね?」
「ええそうなんです。金沢に泊まって、鯨波の妙智寺さんに立ち寄ってから湯沢に向かいました」
「妙智寺?お寺にご縁がおありなのですか?」
「いいえ、そこは昔、民宿をされていたんです。高校三年生の夏に友達と3人で泊まったんです」
「ただそれだけでお寄りになったのですか?」

なかなか鋭いところを突かれた。

「森さん、実はそこでちょっとした事が起こって、知り合った男性としばらく交際をしておりました」
「やっぱり・・・そうでしたか。若い頃の甘い思い出ですなあ。羨ましい。この歳になるともう面倒くさくなりますからいけませんね」
「そんなこと仰って!奥様に失礼ですよ」
「いやあ、妻はもう諦めておりますから・・・なあ、多恵子?」
「あなた!何が諦めているというのですか?失礼な・・・」
「それ、御覧なさい。女は幾つになっても女なんですよ、覚えて置いてあげて下さいね、森さん・・・」
「いや〜参りました。そうですか、良く覚えておきます。ところでその方とはどうなったのですか?」
「はい、2年ほどで海外へ転勤されてそのままになっております」
「そのまま?自然消滅ということですね?」
「いいえ、違うんです。そのまま・・・なんです」
「よく意味が解りませんが・・・」
「そうですか・・・最後の彼からの言葉は、待っていてほしいと言うことでしたから・・・」
「ええ?ひょっとしてずっと待っておられるとか、言うんじゃないでしょうね?」
「・・・50歳になりましたのでそろそろ覚悟を決めないと、と思い立ちまして妙智寺へ行ったのです。その時の住職様がお元気でいらしたので、お話いたしました。そうしたら、なんと彼からの手紙を預かっていると手渡され、驚きました」
「なんということ・・・そのようなドラマみたいな事があったのですね」

話は核心部分へ入って行く。

「彼からもらった手紙には、仕事上で無理やり勧められた相手と結婚した事、上手く行かず数年で離婚した事、今は仕事を辞めて父親の塾で講師をやっている事、そして、あの世で再会して今度は結婚したいと言うような内容が書かれておりました・・・今も好きだという言葉も最後に添えられていました」
「つまり、その方は現在独身で、有紀さんの事をまだ好きでいらっしゃると、そういうふうに理解されたのですね?」
「ええ、彼はどうであれ、この手紙を受け取って何度も読み返し、自分の気持ちが再び彼に強く向かい始めました。一度は諦めなきゃって、思い始めたのに、今はもうただ逢いたくて・・・」
「連絡されたのですか?」
「はい、教えていただいた昔の自宅の番号に掛けましたが、今は使われていないとなっておりました」
「そう・・・引越しされたようですね」
「もうご両親は亡くなってしまわれたようなことも書かれておりましたから・・・そうなのかも知れませんね」
「その方のお友達とかに連絡して教えていただけるといいのでしょうが、何か手立てはお持ちなんですか?」
「いいえ、存じ上げません。交際をしていたといいましても、名古屋と大阪ですから月に一度逢うぐらいでお互いの友人などとは一緒に会ったりしたこともありませんでしたから」
「名古屋のお知り合いと言われていたのは、その方だったんですね・・・どちらですか?」
「確か・・・昭和区の住所だったように思いますが・・・今は思い出せません」
「住所がわかれば地図で探して、自宅があった近所の方にどうなされたのか聞くという方法もありますね」
「そうですか・・・そうですよね」
「私は名古屋市内ではないのですが、時折用事で出かけますので、一度お調べいたしましょう。男の方が怪しまれませんから都合がいいかも知れないしね」

有紀にとってありがたい助け舟であった。
自宅へ戻ったら詳しい住所と電話番号をメールしますから、とお願いをした。

森の妻が有紀に向かって聞いた。
「有紀さんは、ずっとその方を好きでいらしたのですね。素敵なことですわ・・・」
「ありがとうございます。多恵子さんも良いご主人とお幸せに暮らされて、羨ましいですわ」
「そう・・・そうですよね、贅沢を言ったら限がありませんからね」
「おいおい!何が贅沢なんだ・・・言うね」
「森さんが、気を遣われないから、そう反論されたのですよ。これからは優しくしてあげて下さいね」

レストランの窓から見る神戸の港は冬空からの木枯らしと、雪になりそうな黒い雲のせいで寂しくそして物悲しく見えていた。

一階のロビーに席を移して、少し話をしてから有紀は帰り支度を始めた。
「今日はありがとうございました。森さんとお会いできてとてもよかったです。お願いしました件は急ぎませんのでお知らせいただければ光栄です。大阪の町も楽しまれてお帰り下さい。では、失礼します」
「有紀さん。任せておいて下さい。お役に立てる事が私は嬉しいのですよ。では、メールして下さいね。気をつけて帰って下さい。寒くなりそうですから・・・メリークリスマス!ハッピークリスマス!」
「はい!メリークリスマスアンドハッピークリスマス」

タクシーで駅に向かう途中から細かい雪が舞い降りてきた。今夜はホワイトクリスマスになりそうだ。梅田でケーキを買って、自宅へ道を急いだ。買っておいたワインを持って内川さんを訪ねよう、心は三人で迎えるクリスマスナイトを楽しみにしていた。家族のいる久美や志穂はきっと親子で仲良くケーキを囲んでいるのだろうなあ、とも頭に浮かんでいた。明雄さんはどうしているのだろう・・・こんな寒い夜に一人で過ごしているのだろうか。だとしたら、私を呼んで!声を大にして叫んで!きっと見つけるから・・・逢いたい・そして、抱きしめて欲しい。

「こんばんわ〜埜畑です。内川さん、いらっしゃいますか?」
まだどこかへ出かけて帰っていなかったのであろうか。返事が無かった。仕方なく自宅に戻り、仁美の携帯にメールを入れた。

「もう帰ってきましたので、連絡ください・・・有紀」と。

一時間、二時間、と過ぎてゆく。返信が来ない。電話をしても留守電になって応答がない。

「どうしたのだろう・・・今夜は都合が悪くなったのかしら。そうだとしたら、連絡をして頂けると思うけど、嫌な予感がするわ・・・」落ち着かない様子でそう思っていた。22時を回って連絡が無いから、仕方なく冷蔵庫の有り合わせで食事を作って食べ、テーブルの上にケーキを向かい合わせに二個並べて、ワインではなく紅茶を入れて座った。