緑の季節【第一部】
法要の日は、今にも雨粒が落ちてきそうな天気だった。
お天気コーナーの予報では、曇りと言っていたのだが、空模様は怪しい。
覚士は、何度も窓から空を見上げては着替えをしていた。
「おーい、里実なにか悲しいのか・・なんて君のせいじゃないのにな。じゃあ出かけるね」
覚士が、自動車を走らせて三つ目の信号で停車していた時、フロントガラスにパラパラと雨粒が付いた。
「降って来たか」
ワイパーで一度だけ拭うと信号がちょうど変わった。
到着までに間欠ワイパーを2、3度作動させたが、駐車場に自動車を止め、砂利に踏み出す頃は、雲が少し薄くなって薄日が差していた。
湿った砂利が砂埃も抑えてくれていつもより靴の汚れもほとんど気にしなくて済んだ。
覚士は、花束を抱え里実の墓前へと向かった。
ふとすれ違った人はあの『*****』の女性だった。
お互いに足の向く方へ歩き離れて行った。
「里実、こうして花を買いに行くうちに詳しくなったわけじゃないけど、ポピーに白いのがあるんだね。赤や黄色だけかと思ったよ。
どう?なかなかきれいだよね。花言葉『乙女らしさ』うん里実らしい。
『忍耐。なぐさめ。』ってのも、花言葉らしいよ」
墓石のまわりを整え、花束をたむけるとそっと手を合わせた。
「もうひとつ花言葉教えて貰ったよ。『感謝』僕の送りたい気持ちだよ。
こうして今僕が過ごしているのも君への思いがあるから、君が残してくれた思い出が
あるから、だと思う」
「覚士」
声に振り返ると覚士の両親だった。
「おはよう。来てくれたんだ」
「今日は、先にお参りさせてもらおうかと思ってね」
「行こうか」
三人は、ホールへと無言で向かった。