緑の季節【第一部】
日常に戻った覚士だが、墓地を訪れては、心での会話をした。
誕生日、記念日、ふと気が向いた時・・・
里実への思いが薄れるどころか、増幅していく。思いの中に自分が溺れていく感覚に戸惑う日もあった。
そんな時、覚士はひとり深酒をする事も少なくなかった。
母親は、部屋の様子を見に来た時のアルコールの空き瓶、空き缶で薄々分かっていた。
そっとその辺りの広告や紙切れに走り書きの手紙を書き残しては帰った。
「覚士へ
貴方の体は自身だけのものじゃないのよ。
しっかりしなさい・・。墓守りさん
丈夫な母より」
「覚士へ
サケは美味いですか?
たまにはおやじのお酌にでもいらっしゃい。
ゲコの母より」
「覚士へ
今度の火曜は資源ごみの日です。
分別したので缶と瓶を出してください。
エコの母より」
母の残すメモを読んでは、ふて腐れたり、笑ったり、サケも楽しみながら飲めるようになった。
(おふくろ、相変わらずだな。幼稚園から帰るとおやつと一緒に何か書いてあったっけ)
何かのくじ引きで当たったダストボックスは、母親のメモ専用のゴミ箱になっていた。