緑の季節【第一部】
その後は、男同士、女同士、身近な話題で話が弾んだ。
「里実さんに教わろうと思っていたお料理、お母様のお得意とか、今度教えてくださいね」
「ええ、あの子、『コレはお母様に自慢するの』ってそれしか覚えていかなかったんですよ。美味しく出来ていましたか?」
「はい、とっても。ただよくご馳走になりましたけど。ふふ、でも美味しくて楽しみでしたのよ」
男同士は、覚士を交え、仕事の話、趣味の話、飲み屋の話と他愛もない話が場を和やかにしていた。
「覚士君、里実はいい娘だった。でも君の心にずっと残しておいていいものかと心配しているんだ」
「お義父さん、今はまだ何も考えることができませんので、そういうお話は封印しておいてください。お願いします」
「そうか、わかりました。覚士くんとの約束にしておこう。妻にもいらぬ口を出さないように言っておくよ。遠慮なく相談に来てください」
「すみません。勝手言っているかもしれませんがお願いします」
「あら、男の方たちは何のお話かしら」
「おまえたちのように、食い物の話ばかりじゃないぞ」
「まあ、聞こえていましたの。大切なことよ。腹を満たす話は家庭円満の秘訣ですもの。ねえお母様」
普通の出来事のような、ありきたりの食事会のような、そんな時間が覚士には安らげた。