緑の季節【第一部】
緑と紅の葉が揺れる頃。
風がそよ吹く、紅葉の始まった丘が見渡せる場所。
覚士28歳。
それからまもなく、位牌以外のほとんどの里実のものは実家へと移された。
覚士が望んだことではなかったが、思い出のものに囲まれて居るよりは少し心が落ち着いた。
新年を迎えた頃、少し広くなった部屋を出ることにした。
今度の住まいは、男一人に十分のスペース。要は寝れる場所さえあれば良かった。
場所も会社への交通(アクセス)が比較的便利な所にほとんどワンルームのような2LDKを借りることができた。
やがて覚士の生活も人目には平穏に映るようになってきた。
話かけ辛そうだった同僚、お得意様とも以前のような付き合いが戻った。
覚士の周りに特に変化はなかったがやはり帰宅のドアを開けるのは重たかった。
一人の食事にも慣れた。
とはいえ、夕食らしいものはさほど欲しくはなかった。
コンビニで買った軽めのビールとレジカウンター脇のケースにある軽食やサイドメニューとで済ませることがほとんどだ。
酔って眠るせいなのか、里実に会える夢は見た記憶がまだない。
(里実・・忘れているわけじゃないよ。里実は僕の夢に来る気はないのかい)
ふと、そんなことを脳裏で語りながら、ふっと笑ってしまうくらいなのだ。