緑の季節【第一部】
木の芽が膨らみ、これから新しい息吹を感じる季節の始まりの頃。
透き通るように白い肌。口元が今にも微笑みそうな優しい顔。
誰もがもう一度、その声が聞こえるような錯覚さえ覚えるそんな最期の時。
覚士は悲しみの思いよりも里実との短くも優しい時間の流れを嬉しく思う自分が居るのをそっと感じていた。
(君に会えて・・・)
実家に戻った里実は、業者の手を借りて美しく箱に納められた。
優しく眠るその口元にあのルージュを付けてもらった。
「綺麗だよ」
里実の告別式は、親族とわずかな友人とでしめやかに行なわれた。
覚士は、気丈に振舞ってはいたものの、涙する人の姿に気持ちが引き摺られてしまいそうだった。
煙の立ち上る様子をただ黙して見上げていた覚士に誰ひとりとして声を掛けることができなかった。
控え室では覚士と里実の両親が慰め合い、静かに時間の経つのを待つしかない様子だった。
どれくらい時が経ったのだろうか、係りの人が呼びに来たのは。
「覚士、時間だぞ」
覚士の父親が呼びに来た。
「もうそんな時間なのか?」
覚士は立ち上がると父の招く方へと歩み出した。
真っ白な美しい骨が里実が寝ているようにそこにあった。
係りの促す手順に従って事を納めていく。
無情にも取れるその行為は、覚士を耐え難い思いにさせた。