緑の季節【第一部】
朝、目覚まし時計が鳴ってもなかなかその音が止まらなかった。
「おーい、朝だよ」と言いかけて覚士は飛び起きた。
今まで一度もそんなことがなかったどころか、目覚まし時計のなる前にそっと止めて
覚士を起こさないようにしてくれていた里実が覚士の横のベッドで目覚めていないのだ。
「さとみ」
体に触れてみるとぬくもりは感じられた。
呼吸も微弱だが確かにしていた。
覚士はすぐに救急車を呼んだ。
里実の実家へも連絡したが、まだ病院がわからない。
早朝の町にサイレンの音は響いた。
近所の家のカーテンがひらひら動く気配もあったが覚士にはどうでもいいこと。
(早く)
ただそれだけの願いでいっぱいだった。
病院での対応は速やかで里実に優しかった。
だが、体に付けられた機械は家族に現実を突きつけた。
機械の発する音が一音に変わった。