緑の季節【第一部】
ベランダに置かれたカランコエの鉢植えに花が咲いた。
里実が好きな花だ。
花言葉は『あなたを守る、おおらかな心』
ひとつは、結婚式の時の飾りに使用されたものを無理を言って貰って帰ってきたものと
もうひとつは、覚士が花屋で見つけたベルのようなウェンディという名のカランコエだ。
ちょっとめんどくさがり屋の里実がこの花の手入れだけは忘れなかった。
「ねえ、見てくれた?咲いたの。嬉しいね」
「じゃあ、今日の料理はそれの葉っぱかな・・ははは」
「もう。早く会社に行けば・・」
少し拗ねてみせた。
「ごめん。じゃあもう一鉢買ってあげようか?」
「ううん、いらない。せっかく咲いたコたちが妬くといけないから。ありがと。
いってらっしゃい」
花の数が増えるたび里実の気持ちを明るくさせたが、徐々に衰弱しているように見えてしまう覚士は辛かった。
静かに穏やかな日々のまま、里実との別れの日は訪れた。