緑の季節【第一部】
家に戻ってからも家族で写真を撮った。
早く里実を着物から開放してあげたかった。
元々、着物は嫌いではなく着慣れているふうではあったが、普段着に着替えた里実の顔色は楽になったように見えた。
家族と居る時間をこんなに意識したことがあるだろうか。
団欒の中の緊張感とでもいうのだろうか。
誰もが集中している時間の流れ。
里実の両親は夕方に帰えることにしたが、ふたりは晩御飯も食べてから帰宅した。
正月の休みも終わり、覚士も仕事の毎日が始まった。
留守の間、時々里実の母が訪れては手助けをして帰って行った。
里実の体調も良くない日が増えてきたからだ。
それでも、入院するところまではならずに過ごすことができた。
「今年は、福も鬼もみんなでわいわい豆まきしたいね」
里実は近頃そんなことを言うようになった。
何かにつけ「楽しく」とか「淋しくない」とか、覚士の気持ちを重くしていた。
季節は、里実の将来を色褪せた日にした運命の日に巡ろうとしていた。