緑の季節【第一部】
数日後、除夜の鐘とともに新しい年を迎えた。
真壁家に里実の両親も招いての新年会となった。
里実は結納の時に着た着物で装い、新年の挨拶に訪れた。
「こんなの着てますが、お手伝いできますから」
申し訳なさそうに言った。
「いいの。こんな日でないと料理の腕を振るえないでしょ。今日は私に任せてちょうだいね」
「すみません」
キッチンでのふたりに「おーい。里実さんはこっちこっち」とリビングから声が掛かった。
「ほらね。主人ったら朝からずっと言ってるのよ。『今日は娘が来るからおまえは
美味しいもん頼むぞ』って」
「ありがとうございます」
「ほら、覚士。里実さんのエスコート」
「はいはい」
誰もが新しい年と里実のことを祈り 明るく過ごした。
「僕たち初詣に行って来るよ」
ふたりの出掛けたのは歩いて十数分の所にある普段は素通りされてしまうような神社であったが、この日は疎らに人の出入りがあった。
「へえ珍しい。さすがに正月だね」
「・・」
「ここで人に会うなんてめったにないからね。いつも暇そうな神様も願い事バンバン叶えてくれそう」
「だといいね」
ふたりは声にしないまま、長い間手を合わせていた。
「覚士さんがずっと目を閉じてるからやめられなかったじゃない。クスッ」
「だって・・何でも言っておけばどれか当たる」
「えー宝くじじゃないのよ」
「まあいいじゃない。ねえ写真撮ろ。里実すごく綺麗だし・・着物」
そんなことを言いながら 通りかかった人にお願いして2,3枚写した。