緑の季節【第一部】
街には、クリスマスソングが流れ始めた頃、ふたりは久しぶりに外で待ち合わせをした。
おしゃれして、あの日プレゼントにもらった口紅を付け出かけようとした里実は体に少し違和感があったが、そのまま家を出た。
待ち合わせ場所にはまだ覚士の姿はなかった。
美しく飾られたクリスマスツリーの横で待っていたが軽い眩暈に近くのベンチに腰をかけ待つことにした。
(大丈夫。今日は大丈夫)
体に言い聞かせるように心で叫んでいた。
待ち合わせ時刻より早くに着いた覚士はベンチに座る里実を見つけた。
「お待たせ。早かったんだね」
覚士は里実の横に座った。
「寒くなかった?あっ、手が冷たいじゃない。ずいぶん待ったんじゃないの?」
里実はふっと微笑むと覚士にしな垂れかかった。
「さ、さとみ・・」
「大丈夫。覚士さん、暖かい」
「呼び出してごめんね。家に戻ろう」
「ううん、もう少しだけツリー見ていたい」
覚士は、自分のマフラーで里実の手を包んでやるとそのままツリーを見上げた。
言葉にしてはならない台詞が覚士の頭の中を巡っていた。
「さ、そろそろ帰ろう。ケーキ買って帰ろうね」
ほど近くにテレビ番組の情報コーナーに紹介されたオープンしたばかりのケーキショップがあり、そこで少し早いがケーキを買ってクリスマス気分を味わうことにした。
帰り道はタクシーを利用しての帰宅となった。