緑の季節【第一部】
暑い日々の中に秋風が混じり始めた頃、里実の誕生日がきた。
里実24歳。
里実の父親が会社で貰ったと言ってレストランのディナーチケットをくれた。
おそらく、買って用意したものと思ったが、ありがたく ふたりは出かけた。
「里実、お誕生日おめでとう。はい、これ」
覚士は、小さな包みを里実の前に突き出した。
「プレゼント?ちっちゃいな。何かな?」
包みを嬉しそうに開けると、それはルージュ。
「口紅・・」
「似合うと思うよ」
いつも元気に見えるように里実は化粧をしていたが、紅筆を使わなければならないほど
少なくなっていた。
(治療にかかる分、節約してくれてるもんな)
「ありがとう。こういうの初めて。アクセサリーかなって思ってた 」
プレゼントの包みをまとめ終えた頃、テーブルには料理が運ばれてきた。
盛り付けや色合い、味もふたりの邪魔をしないほど食べやすいものばかりだった。
メインの料理が済んだ後、少しつんむり高いコック帽を被った人が挨拶に来た。
「いかがでしたでしょうか」
「とても美味しかったです」
緊張の面持ちで言葉を交わした。