緑の季節【第一部】
あれから平穏な日々が続いた。
風までもが暑く感じる季節。
夏の日差しは、顔色の悪い日にも味方するかのように里実の笑顔を照らした。
「海、見に行こうか」
「うん。お弁当は玉子サンドでいい?」
里実の作る玉子サンドは、オムレツ風な味の薄焼き玉子とキュウリの薄切りを辛子と
マヨネーズを塗った食パンにはさんだシンプルなものだったが、ふたりのお気に入りの
一品だった。
「飲み物はコンビニで買う?」
「ううんいい。ポットにコーヒーとお茶もって行くから」
出かけた海でふたり砂浜で腰を下ろし、疎(まば)らに海を楽しむ人を前におしゃべりを楽しんだ。
「私たち、どう見えてるかな?」
「どうって?」
「海にも入らず、ずっと座っているだけで。私病気に見える?」
「見えてないよ。水着も持たずにふらっと海に立ち寄ったカップルってとこかな」
「そっか、良かった」
広がる海を眺めながら他愛もない話をずっとしていられる事がふたりには幸せだった。
「・・疲れない?」
「大丈夫。辛かったらちゃんと言うから。気にしちゃ嫌。少し歩こ」
熱い砂に足を捕られながら歩くのは里実にはつらいだろう。と覚士は、里実をお姫様抱っこをすると水際の湿った砂まで行った。
「もう、びっくりしたー。恥ずかしいじゃない」
覚士は何も言わず笑みをつくった。
時折、足元に届く波にはしゃぎながら覚士の傍らを歩く里実は嬉しかった。
陽が傾いてきた頃、ふたりは車へと戻った。
さすがに疲れたのか、肩で息をしている里実だったが覚士はそっと見守っているだけだった。