熱病<Lady>
「……あてつけに病気になったみたいだなぁ、何か」
白い天井を見ながら呟いた時、扉が開いた。
「起きれるか」
「…少しなら」
彼はトレイにスープの入ったお皿とスプーンを乗せて持っていた。
「……ありがとう…あとは自分でやるから、帰っていいよ…」
「いいって」
彼が温めてくれたスープを少しずつ口に運ぶ。
「…彼女とはどうなったの?」
「……訊きにくい事訊くな、お前」
「だって…」
「ダメだったよ」
「え?」
「彼氏いるんだってさ」
「……そう…」
勿論、だからってよりを戻せるとは思っていない。
「お前は」
「…告白された。一緒に仕事してる人から」
「俺の知ってる奴か?」
「うん…でも断った」
「…一緒にいろって事なのかな、俺とお前とで」
「……やめてよ」
鼻の奥がツンとして、すぐに涙が溢れた。
「うわ、泣くなよ、冗談だって」
「冗談だから嫌なの……まだ好きなんだもん…」
「…もう忘れてくれよ」
「やだ…どうしてそんな事言えるの?」
私は声を上げて泣いた。
「私の気持ちは私の勝手でしょ、どうして忘れろって言われなきゃいけないの?」
「……」
「そんな事言うならどうして来たりしたの?無視すればいいじゃない」
「できるかよ」
「してよ!忘れて欲しいなら無視してよ!」
「…友達が熱出して寝込んでるの、無視できるか?」
友達。
その言葉は私の心の奥に突き刺さった。
熱でぼわぼわした頭が、もう私を冷静ではいさせなかった。
私は大声を上げて泣いた。
彼が私の膝の上のトレイをどけて、私を抱き締める。
「落ち着け!」
私はあらん限りの力で彼を振りほどこうと暴れた。
でも彼の力には敵わない。
「俺が悪かった、とにかく落ち着いてくれ…横になるか」
部屋はしばらく、沈黙と私のしゃくり上げる息の音だけになった。