新幹線 のぞみ 1059号
高見沢は「エ−イ、もうヤケクソだよ!」と、遂にハズミとイキオイで2号車へ突入しかけた。
しかし、ここは辛うじて踏み留まった。
そして、2号車の入り口からそっと車内を覗いてみる。
「ウッ!」
ドギモを抜かれ、今にも吐きそう。
2号車の中は … 猿みたいなヤツ、いや猿ばっかりなのだ。
声はキャッキャ、
臭いはムンムン、
眺めは極度の破廉恥状態。
とてもではないが、足がすくんで中へとは入って行けない。
「という事はだぜ、
1号車はきっと … トカゲみたいなヤツばっかりかよ」
高見沢は、嘔吐(えづ)いている割にはなぜか冷静に考えを巡らせている。
その結果、とてつもなく馬鹿らしくなって来て、5号車の自分の席へ戻ることとする。
「一郎、どうだった?」
席に着くと、父が心配そうに聞いて来た。
事はどうであれ、血の繋がった御先祖様達の話し。
高見沢はどう返事して良いものやらわからない。
「お父さんも家を守るために よう頑張った来たよなあ、今も元気そうで良かったよ、で、これからどこへ慰安旅行に行くの?」
高見沢は父への答えの代わりに尋ね返してみる。
「これは言ってみれば、現世里帰りツア−でな、
最近までこの世にいた新人のお父さんが幹事で、どこへ行くかはお父さんが決められるんだよ、
それで、昔々、
お母さんと新婚旅行で行った、懐かしい熱海温泉に行くことにしたのだよ」
「ふ−ん、熱海温泉か、いいじゃん、まだ生きてるお母さんには伝えておくよ」
「ああ、お母さんに、よろしくと言っておいてくれないか、百花繚乱の天国で待ってるからねって」
「うん、わかったよ」
高見沢は軽く返した。
作品名:新幹線 のぞみ 1059号 作家名:鮎風 遊