新幹線 のぞみ 1059号
その後、高見沢は父親・清蔵と二、三の会話を交わした。
しかし、いつの間にか普段のサラリ−マンに戻ってしまった。
明日の会議では、またまた際限のないコストダウン要請がガンガンと飛び出して来るだろうなあと考えを巡らしている。
そんな言いたい放題の連中と闘うために、少し資料でも読んでおくかと思い、鞄より資料を取り出し読み始める。
「ただいま時刻通りに、新横浜駅を通過しました」
車内アナウンスがあった。
いつの間にか時間が経ってしまったのだろう。
ちょっと前に、車内がザワついているのは感じてはいたが、よく憶えていない。
高見沢は資料を読みながら、多分眠ってしまっていたのだろう。
ただ、〈のぞみ1059号〉は既に新横浜駅を通過し、ひたすら東京へと走っている。
隣に座っていた父も、窓側の席にいたお爺さんも、後ろにいた親父のお爺さんも、もうそこにはいなかった。
「ふ−ん、熱海温泉への慰安旅行か、いいな、親父も結構楽しそうにやってるよなあ」
高見沢はこんな調子で、深く考えを巡らせたわけではないが、さらに独りぼそぼそと呟く。
「そうだなあ、俺の時は、夏子とハネム−ンで行ったグアムに行ってみるか」
東京のダウンタウン、
その夜の煌めきが車窓から眩しいくらいに侵入して来る。
もうすぐ終点の東京駅だ。
「のぞみ59号は、あと3分で東京駅に到着致します」
そんな車内アナウンスがあった。
高見沢はこれを耳にして驚いた。
「えっ、これって … 59号?」
「おかしいなあ、俺が乗ったのは確か … 親父が言ってたように、
〈のぞみ1059号〉のはずだったよなあ、
一体何どうなったんだろうか … 1059号って?
あっそっかー、慰安旅行で、
親父と御先祖様達が乗ってた新幹線・〈のぞみ1059号〉、
あれはつまり … テン・ゴ・ク
〈天国号〉だったんだ!」
高見沢は、すべてがやっと腑に落ちた。
そして、書類を片付けながら、独り言をぼそぼそと吐くのだ。
「よし!
明日からまた、
高見沢家の出世番付、
5番内に入れるように … 頑張るか!」
おわり
作品名:新幹線 のぞみ 1059号 作家名:鮎風 遊