新幹線 のぞみ 1059号
「こいつら全部、俺の先祖かよ、ああ嫌だ!」
高見沢は不満。
だが、ここは冷静に。
「だけど1車両70、80人はいるよな、
20から25歳で長男が出来たとして、
4号車だけで、時代を少なくとも1500年くらいは遡(さかのぼ)る事になるのかな、うーん、なるほど」
高見沢はこんな納得したような事を呟きながら、4号車を通り抜けて行く。
いやはや、実感として本当にそうなのだ。
4号車も、3号車寄りの後方になってくると、より時代を遡る事となる。
したがって、石斧のようなものを持ったヤツとか、
顔に墨を入れたヤツとか、実に原始人ぽくなって来る。
「俺の席が5号車の7のC、その5号車だけで700年くらいかな?
で、4号車まで全部遡ったとして、ト−タルで2000年そこそこ、
と言う事は、まだ縄文時代までとは行かず、弥生時代か、ウ−ン」
高見沢は喫煙ブースで煙草を一服吹かし、不覚にもこんな一種の歴史的感動に酔ってしまっている。
そして父は、参考に3号車も覗いておいた方が良いと言っていた。
だが高見沢は、
「ちょっと鬱陶しいなあ、何が飛び出して来るかわからないしなあ、どうしようかなあ、やっぱり思い切って、3号車に入って見ようかなあ」と迷い出している。
だけど、ここは男の子、
意を決し、煙草を小さな灰皿に押し込んで、
「まあ親父もああ言ってたし、この際だから3号車も2号車も覗いて見るか」と踏み出した。
そしておもむろに3号車へと歩を進めると、ドア−が音静かに開いた。
そのとたん、高見沢の息がウッと詰まってしまう。
理由は簡単、3号車はまさに原始人だらけ。
「こんなヤツらと、俺は同じDNAを持ってるのか!」
こう叫びながら、3号車を急ぎ足で通り過ぎた。
作品名:新幹線 のぞみ 1059号 作家名:鮎風 遊