新幹線 のぞみ 1059号
それを横で見ていた父の清蔵が、一郎の今後の人生のためにも、この先祖絡みの事態をもっと知っておくべきと説明してくれる。
「高見沢家では 父親が死んだら先祖一同が集まり、慰安旅行に行く事になってんだよ、
その時に、
次の男の家督相続者を、ちょっと紹介する、
それが恒例で、
今回は一郎、おまえだよ、
まあ、気楽にしときなさい、
それで、後で良いから、3号車、4号車にも挨拶というか、顔見せ …
まあ参考に、
覗いておいた方が良いかも知れないなあ」
高見沢はこの話しで、なんとなく状況が掴めて来たような気もする。
しかし、ドドッと疲れが出て来たのか、シ−トに深々と身体を沈め放心状態。
しばらくの時間、この摩訶不思議なワールドにより馴染もうと魂を埋没させようとしている。
しかしだ、これは御先祖様・御一同の慰安旅行。
高見沢はその新幹線・のぞみ号に乗り合わせてしまった。
そんな事って現実にあるの?
だが、あったのだ。
こんな衝撃、それはそう簡単に収まるものではない。
高見沢は新幹線に乗車している間ぐらいは禁煙しようと思っていた。
しかし精神が高ぶり、辛抱し切れず、後方の4号車と3号車の間にある喫煙ブースへと席を立った。
喫煙するためには4号車を通り抜けなければならない。
そして踏み込んだ4号車、高見沢がそこで目にした光景とは … 。
それは目を疑うものだった。
とにかく御先祖様達で満席だ。
だが、実に汚らしい。
その上に、神主の烏帽子のようなものをかぶったヤツだとか、半分裸のヤツだとか、奇妙奇天烈なヤツばっかりなのだ。
高見沢が通路を渡り歩いて行くのを珍しそうにじっと見詰めて来る。
しかし、まったく怖くはなかった。
不思議にも、
皆さん、優しい眼差しを投げ掛けて来てくれるのだ。
作品名:新幹線 のぞみ 1059号 作家名:鮎風 遊