新幹線 のぞみ 1059号
そんな喫驚仰天(きっきょうぎょうてん)の高見沢に、父・清蔵はこんな事を話して来る。
「一郎なあ、このお方がおまえのお爺さんだよ、
一郎が生まれる前には既に死んではったんだが、
まことに目出度い事だよ、
今日縁あって、一郎はお爺さんに初めての顔見せ出来たのだからなあ、
お爺さんは、若い時にキャナダに行って金儲けしはってなあ、立派な仏壇買わはってのう、
このお方こそ、正真正銘の一郎のおじいちゃんぞ」
高見沢はエ−と目を白黒させながらも、窓側の男を見てみると、高見沢と同年輩ぐらいの男で、お爺さんと呼ぶには若過ぎる。
だが威厳があり、少し怖い感じがする。
しかし、親しみを込めた優しい目で、高見沢をじっと見つめて来ているのだ。
そして、今度は
後方の6のC席の、歳の頃は40歳前後の男が座席越しに話しかけて来る。
「ほうお、そうか、おまえが孫の清蔵の子か、
ワシはおまえのお父さんのお爺さんぞ、つまり一郎は … ワシのひ孫じゃ」と。
高見沢がその声で振り返ってみると、やはり和やかな顔をしてニコニコと笑ってくれている。
「一体、これは … ナンヤネン!」
高見沢はどうなっているのかまったく理解出来ない。
そのため、もう辛抱し切れず、
高見沢は横で幸せそうに座っている父の清蔵に思い切って聞いてみる。
「お父さん、これは一体全体どうなってんのよ?
ジッジーは窓側に居てはるし、その親父という人も、この後ろに居てはるし … 」
すると父親は穏やかな口調で答えてくれる。
「あのな、この〈のぞみ1059号〉にはな、
高見沢家の父親が、古いのから新しいとこまで、
後方の1号車から順番に乗ってるんだよ、
ちょっと後ろの方を見てみなさい!
馬鹿みたいのもおるし、賢いのもおるで、
全部、おまえの先祖や、
3列後ろの窓側の席の人を見てみ、
あの人が高見沢家の出世頭で、
一番偉い八代前の庄助さんなんやで、
殿様から信頼してもろうてなあ、
五つ位の村を束ねてはったお方や」
作品名:新幹線 のぞみ 1059号 作家名:鮎風 遊