新幹線 のぞみ 1059号
高見沢の父・清蔵は、ついこの間逝ったところだ。
癌で入院し、きっと末期だったのだろう、わずか10日間であっけなく他界してしまった。
その父が、なんと今 … 横に座っているではないか!
口から心臓が飛び出してしまうほど高見沢は仰天した。
そんな驚きで、しばらくシ−トベルトに縛り付けられたように身動き出来ず、声も出て来ない。
「これも、ひょっとすると … 夢なのか?」
父が亡くなってから、高見沢はよく父の夢を見るようになった。
そのためか、また夢かと思った。
高見沢は沈黙をしばらく続けた後、やっと声を振り絞る。
「お父さん! こんなところで、何してんだよ?」
すると直ぐさま、生前と同じ声で、
そして同じ口調で、
驚いている一郎を落ち着かせるように父から返事が返って来た。
「よく来てくれたなあ、まあ一郎、ここに座っときなさい、その内わかるから」
「やっぱりアンタは親父か! 何なんだよ、これは!」
高見沢の思考が極度に混乱している。
そして、この事態を理解するため、一つ深呼吸をしてみる。
その時だ、また … 。
父の隣の窓側のA席から
「おまえが一郎か? ちょっと顔をよく見せてくれないか?」
そんな声が掛かって来た。
それを横で聞いていた父親が、
「お父っつぁん、これが一郎ですよ」と。
高見沢はもう訳がわからない。
作品名:新幹線 のぞみ 1059号 作家名:鮎風 遊