新幹線 のぞみ 1059号
「黄色い線までお下がり下さい!」
その罵声にも近いアナウンスが降り掛かって来る中、
そののぞみ号は東京方面に向けて、16号車を先頭に、15/14/13号車と順次高見沢の横を通り過ぎて行く。
そして今スピ−ドを落とし、ゆるやかに止まろうとしている。
高見沢は小走りにながら車内を覗いてみる。
割に空いているようだ。
だが、団体さんが乗ってるようでもある。
「季節外れのこの時期に、団体旅行か、まったく物好きな連中だよなあ」
少し不思議な感じもしたが、「まっいっか」と後は気にも留めない。
そして〈のぞみ〉は定位置で停車し、シュワ−という空気音とともにドア−が開いた。
だが、降りて来る人はいない。
「新大阪駅発だから、一駅だけじゃ誰も降りて来ないよなあ、
だけど、乗るのは俺一人か? おかしな話しだなあ」
高見沢は小首を傾げたが、とにかくこれに乗らないとと思い、5号車の後方乗車口より乗り込んだ。
「ええっと、7のCは?」
高見沢は席を探しながら前方へととにかく進む。
「なんだよ、この団体、きったね−なあ、それに野郎ばっかりじゃん、
ヒゲの生えたヤツとか、禿げてるヤツとか、服もヨレヨレだし、一体こいつらは … 」
高見沢はぶつぶつと呟きながら、団体さんが座る間の通路を突き進んだ。
「えっ、7のCって、団体さんの横の席かよ、なんでよりによってこんな汚い団体と一緒の席に座らなきゃダメなんだよ」
高見沢は不満で、ぶつくさと呟き続けている。
この〈のぞみ〉に間に合うように、息を切らせて走って来た。
そしてやっと席を見付けた。
団体さんの中で、不満はあったが、
「まあ、仕方ないか、とりあえず座って、一休憩だ」と諦め、足下に鞄を置いて、とりあえず腰をおろした。
「それにしても … 」
ちょっと奇怪な事に気付くのだ。
「不可解だなあ … ここから前は全部空席じゃん」
作品名:新幹線 のぞみ 1059号 作家名:鮎風 遊