新幹線 のぞみ 1059号
『新幹線 のぞみ 1059号』
「黄色い線までお下がり下さい。」
エスカレ−タ−を、高見沢一郎は思い切り駆け上がって来た。
すると、プラットホ−ムでは騒々しくアナウンスされている。
「五月蠅いなあ、もう少し穏やかに放送出来ないのかよ」
腹が立って来たが、とやかくとそんな文句を付けている場合じゃない。
ホ−ムに到着しつつある東京行きの〈のぞみ〉になんとか乗り込もうと焦っているのだ。
「えっとえっと、何号車だったっけな?」
高見沢はポケットからチケットを取り出し、
もう一度、号車番号の5号車と座席番号・7のCを確認する。
こんなにも慌ててる高見沢一郎、
ロボット部品会社の京都事業所に勤務するサラリーマン。
そして役職はと言えば、それはそれなりの副部長。
明日、東京本社で朝一から月度会議が開催される。
それに出席するために、前泊出張するのだ。
そして今夜は、米国から一時帰国している同僚と、久しぶりに新橋で一杯やるつもり。
その約束の時間に間に合うように、少し早めに … こそっと事業所を飛び出して来た。
そして、なんとかこの〈のぞみ〉に乗り込みたい。
東京出張は月1ペースである。
そのため、高見沢はよく慣れているのか、プラットホームを脇目も振らず5号車の乗車口へと急いでいる。
作品名:新幹線 のぞみ 1059号 作家名:鮎風 遊