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三木 尚也
三木 尚也
novelistID. 26150
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鬼譚録 ~杠と柊~

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「ああ、助けてやるさ。だから、お前も力を貸しやがれ!」

――はい! わかりました――
 手に握った〈月冥〉は羽のように軽くなった。
 〈月冥〉の刀身は蒼炎を纏ったように揺らぎ、乱れ刃の刃先は真白になり峰は蒼く、透き通った鎬には紫水晶色の字が浮かび上がる。
 浮かび上がる字はオレには読めなかった。
 だが、今確実に力を得たことだけはわかった。
「いくぞ月冥、あいつらを助けに!」

――はい! ――

オレは二人の元へ走った。
杠は右肩に傷を負い、右手を垂らして闘っていた。
地には垂れ落ちた血が溜まり、杠の顔は青ざめ、動きが緩慢になっていた。
『終わりです。姉様!』
 葵が狂ったように笑みを浮かべる。
 杠は避けられない。ただ、向かい来る刃を待つことしかできない。
 キンッ!
 高い音が響く。
 杠へ向った刃はオレが弾いた。
「何ボーっとしてんだよ! 助けるんじゃなかったのか?」
 杠は青白い顔でオレを見上げた。
「怪我人はおとなしく待ってろ、葵もお前の妹もみんな助けてやるから」
 葵の顔が怒りに歪む。
『邪魔をするなゴミ虫!』
「邪魔? 何言ってやがるお前の相手はオレだろうが、クソ野郎!」
 葵は弾かれた剣を握り直しさらに真っ直ぐ振り下ろす。
 オレは〈月冥〉の刃で振り下ろされる七枝之剣に斬り込む。
 葵は笑う。勝利を確信する。
 しかし、その確信は裏切られる。
 〈月冥〉は七枝之剣を受け止めていた。
 葵は驚きを隠せない。
「どうした、クソ野郎。何驚いてんだ?」
 オレの顔に自然と笑が溢れる。
 負ける気がしない。
 葵の動きが遅く感じられる。
 前の闘いの様な緊張はない。
 後ろに後退しながらも剣戟を繰り返す葵の刃を弾き、払い、打ち返す。
「真! 胸じゃ! 胸の鏡を狙え!」
 杠の叫びが聞こえ、オレは胸の銅鏡へ突きを繰り出す。
 しかし、葵は身を翻し剣で防ぐ。
『ゴミ虫が調子に乗るな!』
 オレは距離を取った。
 葵は体勢を整え七枝之剣を正眼に構える。
 オレも構え直す。
 〈月冥〉に浮かび上がる紫水晶色の文字は少しづつ減ってきていた。
 これ、時間制限なのか! 言っといてよ! 説明うけてないって月冥さん!!
 残された紫水晶色の文字は八文字。
 急がなくてはこのカラータイマーみたいな文字がなくなってしまう。
 紫水晶色の文字がなくなった後なんて考えたくもない。
 オレと葵が動いたのは同時だった。
 七枝之剣と〈月冥〉が幾度となく斬り結ぶ。
 減っていく紫水晶色の文字。
 時間がない!!
 七枝之剣には亀裂が入り、斬り結ぶごとに刃が欠け崩壊していく。
 紫水晶色の文字が残り一つになったとき、オレは全身全霊で葵の胸へ目がけて最後の突きを繰り出す。
 葵はまたも七枝之剣で防ぐ。
「貫け!!!」
『させるか!!』
 〈月冥〉は七枝之剣に防がれる。しかし、七枝之剣は少しづつ崩れる。
「うおおおおおお!!」
 最後の文字が薄れる。
 そして。
 七枝之剣は〈月冥〉に貫かれ砕け散った。
 〈月冥〉は止まらず葵の胸に吸い込まれるように入っていく。
 胸の銅鏡の中心に〈月冥〉が突き刺さる。
 ピシッ……。
 亀裂音が静かに聞こえる。
 ピシッ、ピシッ……。
 亀裂音が加速していく。
『私はここで死ぬ……のね……』
 葵は膝を地につき、空を仰いだ。
『私はまた、あの暗闇に戻されるの? 嫌、嫌よ、もう一人ぼっちは嫌……』
 その声は葵の声ではなく、もっと幼い声だった。
 子供が必死に嫌がるように、その声は嫌だ、嫌だと空を覆う闇に言う。
 鏡から〈月冥〉を抜くと紫水晶色の字は消え元通りの刀身にもどっていた。
 周りを取り囲んでいた炎も静かに鎮火していった。
 空は暁光に照らされ、宵闇が明るくなっていく。
『光……ああ、姉様……』
 その言葉と共に鏡は地に落ちた。
 葵は崩れるように倒れた。
「葵! 大丈夫か? おい!」
 葵を揺らすが目を覚まさない。
「おい、目を覚ましてくれ!」
「うるさいわね!」
 次の瞬間、拳がオレの顔の中心を射ぬいた。
「もう少し寝かせなさいよ!」
 悶えるオレに目もくれず葵は周辺を見渡す。
「何よこれ! 家が、家が燃えちゃってるじゃない!!」
 オレは顔を上げると、暁をバックに月宮神社の本殿が燃えていた。
「ああ……」
「ちょっと真! どういうことなのよ! ねえ! どういうこと!」
 葵は激しくオレを揺らす。
「え、ちょっと待て! 杠! こいつに説明してくれ! というか助けてくれ!」
 首がガクンガクンする。
 しかし、杠の声は返って来ない。
 揺らされながら見た風景に杠の姿はなかった。

終章
「で、なんでオレはまたココにいるんだよ……」
「なんでって、真も私と一緒にこのオカルトサークルに入ったんじゃない。何言ってるのよ」
「もう一つ聞くが、なんでオレは椅子に縛り付けられてるんだよ?」
 葵は悪魔の微笑を浮かべ……。
「だって真……縛られないと楽しめないでしょ?」
「オレはそんな趣味持った覚えはない!」
 オレは身体を動かしてロープを解こうとするが結び目はびくともしない。
「このロープを解け! オレが何をした! 人権侵害だ!」
「ふふふ、今日は逃がさないからね。たっぷり楽しみましょうね〜」
 オレの目の前に真っ白なスクリーンが速やかに下ろされる。
「葵、まさか、お前!」
「ふふふ」
 葵はオレの後ろにまわる。
 後ろから聞こえる機械音。
 そして、映し出される映像。
「や、やめろ! オレはそんなモノ見たくない!」
「大丈夫、何も怖くないから、ね? 二人で楽しみましょうよ」
 現れた映像には……。
『衝撃!! 宇宙人解剖実録!!』
 画面中央に宇宙人らしきアーモンド型黒目の頭の大きな人型が映し出され、医療用メスで腹が切り裂かれていく。
「うああああああああ!! やめろ! やめてくれ!」
「いいでしょ? あの頭見てよ〜大きくてス・テ・キ」
 オレは顔を背けて映像を見ない様にするが……。
「真〜。レア映像なのよ? 先輩に頼んで貸してもらってるんだからちゃんと見なさい!」
 葵はオレの背けた顔を無理矢理スクリーンへ向ける。
 視界を埋め尽くす宇宙人の映像。
「うわあああ! え? うわあああああ!」
 葵は楽しそうに映像を鑑賞している。
「ふふふ」
 悪夢だ……。
 オレは衝撃映像を十分堪能させられ気絶した。

 あの日から三か月ほど経った。
 月宮神社は半分が無くなったが今では修復作業が進んである程度直って来ている。
 葵も元に戻った。正直、もうちょっとおとなしくなって欲しいくらいだ……。
 葵はあの事件の事を聞いても「なにそれ? 新しい都市伝説?」と記憶にないようだ。
 あの日、二人で見つけた銅鏡と祭具殿の霊刀・〈月冥〉は葵の親父さん、月宮神社の神主に返した。
 これであのおかしな事件は終わった。
 ただ一つ、気がかりなことが残っている。
 それは……。

 今日も今日とて、葵とオカルトサークルから逃げ出し、いつもの河川敷で川の流れる穏やかな風景で心を癒していた。
 あの事件が起きてからからよくこの河川敷に来ては考える。
 杠のことを……。
 杠と出会ったこの場所。
作品名:鬼譚録 ~杠と柊~ 作家名:三木 尚也