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三木 尚也
三木 尚也
novelistID. 26150
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鬼譚録 ~杠と柊~

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 何かを貫くような、甲高い音が耳元で鳴り響いた。
 葵にはその音は聞こえないようで、葵は何食わぬ顔で鏡を覗こうとしていた。
 音は鳴り続ける。
 オレは思わず耳を両手で覆った。
 視界は闇に落ち、思考は頭に響く音に支配された。
「ぐっっっっっ!」
 呻くように喉から漏れる無意識の声。
 倒れるように膝をつき、顔を伏せた。
 頭に響く音の中に一つだけ強い声が聞こえる。
『すべてを憎め、すべてを壊せ、すべてを殺せ、何も救わず、何も守らず、すべては絶望、さあ、我に従え、人の子よ』
 オレは音に意識を支配され、声をただ聞いていた。
『呪え、呪え! 悪しき常世を呪い尽くせ!』
 頭に響いた声が止むとしだいに身体の自由が戻った。
 耳を覆った両手を下げると元の風景が広がっていた。
 葵の方に視線を向けると葵は鏡を覗き込んでいた。
「葵、大丈夫か?」
 葵はオレから少し離れたところで鏡を持っていた。
「……」
 何も答えは返ってこない。
「おい、大丈夫かって聞いてるんだ!」
「……」
 大きな声をだしても、葵の反応はない。
 オレは葵に近づいた。
「おい!」
 オレの手が葵の肩に触れた瞬間。
『姉様、私、すべてを消すわ……』
 葵から聞こえて来る声は間違い無く葵のものだが、どこか幼く、まるで別人の声に聞こえた。
 葵は銅鏡かき抱き叫ぶ。
『燃えろ!』
 その言葉とともに、辺りは灼熱の業火に包まれた。
 銅鏡は葵の胸に留まり、燃え盛る業火を映し出している。
『ははは、姉様、待っていてください。すぐに殺しにいきますから、すぐに……』
 業火は木々を燃やし、暗い闇を煌々と切り裂いていく。
「お前……誰だ?」
 葵の姿をした何者かはゆっくりとオレの方を振り向いて……。
 優しく微笑んだ。いつもの葵と変わらない優しい微笑をオレに向けた……。
『消えろ、ゴミ虫』
 そう、彼女は短く言い放った。
 オレの身体は周りの木々と一緒に吹き飛ばされた。

第四章
「汝、起きぬか! おい、死んでもうたのかえ?」
 その声は聞き覚えがある声だった。
「起きぬか……。しかたないのう、我が家に伝わる死者をも飛び起きるという秘術を施すしかないようじゃのう!」
 オレはすごく嫌な気がして目を覚ました。
「なんじゃ起きたのか、残念じゃのう」
 何が残念なんだ。
 あれ?
「なんで、お前がいるんだ?」
「汝にお前呼ばわりされる謂れはないんじゃがのう」
 オレの上には前に川で発見した珍獣、杠が座っていた。
「まあ、よいとしよう。で、ハンバーガー真、汝は何故このようなところにいるのじゃ?」
「とりあえず、オレの上からどいてくれよ、話はそれからだ」
「うつけ者め、汝の上に座らずしてどこに座ると言うのじゃ? 土の上なぞ言いまいな?」
 杠はオレの上から見下すように言った。
「普通に立てよ! つか、重いんだよ!」
「汝! 乙女に重いと言うのがどれほどの罪になるか知っておろうな? 打首じゃ!」
「どんだけ理不尽なんだよ! とりあえずオレの上からどけよ!」
「ふむ、そろそろ本題に入ろうかのう。汝、ここで何をしとったのじゃ?」
「え、上に乗ったまま話進めるの? 最近オレ影薄いのかな? はあ、呪いの鏡とか言う胡散臭い物を捜しに来たんだよ」
「呪いの……鏡か……」
 杠は遠い目をしていた。何かを考えているようだった。
「で、お前の方は何をしに来たんだよ?」
「私は……妹を……探しに来たのじゃ……」
「妹さん? こんな山にか?」
「うむ、じゃがもう見つけたのじゃ」
 杠は静かに指差した。
 指の先には口を三日月形に両端を吊り上げた怪しい笑を浮かべ、その胸に銅鏡を飾った葵が紅蓮の炎で辺りを燃やしながらゆっくりと歩みを進めてくる。
『姉様、お久しぶりです』
「ああ、久しぶりじゃのう、柊(ひいらぎ)……」
 杠は葵に向かって柊と言った。
 オレは混乱した。
 何がどうなっているんだ?
 杠は立ち上がり刀袋の緒を引いた。中から柄に鎖で純白の勾玉が繋がれ、鍔が小さい特殊な造りの刀が姿を表した。
『あら、姉様。感動の再会もなく、私を斬るおつもりですか?』
 杠はゆっくりと刀を左腰へと持っていき、構える。
「柊、汝には悪いことをしたと思っておるが、悪鬼羅刹となってしまった汝を放っておくことはできぬ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 柊って誰だよ! あいつは葵だ! そうだろ?」
 杠は顔を背けた。
「すまぬ……。汝らまで巻き込んでしまった……。あの娘は今、人ではないのじゃ」
 オレは意味がわからなかった。
 理解できなかった。
「な、なに言ってんだよ、あれは葵だろ?」
 オレは立ち尽くした。
杠は目を伏せてオレの横を通っていく。
「悪鬼は祓わねばならぬのだ……柊、安らかに眠れ……」
『残念です……』
「許せ、柊……月影……」
 杠が動いた。
 刹那、葵の後ろの木々が轟音を立て横一文字に裂け倒れた。
 チンッ……。
 木々が地に落ち、辺り一面土煙が舞う。その時杠は既に納刀を終えていた。
 オレには杠の動きはまったく見えなかった。
「真。すまぬ、汝まで巻き込んでしまった……」
 杠は泣きそうな顔でオレに言った。
 オレは何もできず、ただ見ていることしかできなかった。
「あ、葵はどうなったんだよ!」
 オレは葵が居た方へ走った。
 辺りは土煙で何も見えない。
「葵! 返事をしてくれ!!」
『ははは、はははははは!!』
 どこからか響く不気味な笑い声。
『姉様の力はこの程度ですか? その程度では〈日(ひ)陽(よう)〉が可哀想です』
 土煙が晴れると、葵は七つに枝分かれした剣を自らの前に突き立てていた。
『姉様も冥府の闇へ堕ちてみてはどうです?』
 葵は軽く微笑んで……。
 七枝之(しちしの)剣(けん)を大地から抜き放った。
 葵はオレを見て、
『邪魔ですね、このゴミ虫』
 葵の見えない斬撃はオレへと向けられた。
 斬撃は刃物が空を斬るように鋭い音を立てて木々を切り裂きながら近づいて来る。
 オレは足がすくんで動けなかった。
 ああ、オレ死ぬのか……。
 あ、オレ死んだ。葵、助けてやれなくてゴメンな……。
「汝!! 早う逃げぬか!!」
眼前には杠が攻撃を防いでくれていた。
 腰を抜かしてしまったオレは必死に這いずりながら近くの木の影へと逃げた。
「柊、汝の言う冥府の闇とはこの程度かえ? 聞いて呆れるのう」
 杠は刀を握っている右手から血を垂らしていた。
あいつ、怪我してるんじゃ!!
『その虚勢がどこまで続くか見物です。姉様!』
 杠は斬り下ろされる七枝之剣を刀の鎬で受け流し、袈裟に斬り下ろす。
 しかし、葵は剣を引きずったまま後ろへ退いた。
『危ないところでした。もう少しで斬られてしまうところでした』
 葵は楽しそうに言た。
「まだ終わりではないのじゃ!」
 袈裟に斬り下ろした後、瞬時に納刀し、抜刀の体勢へ。
「夢想」
 杠の静かな一言と共に刀は抜かれ、神速の斬撃が葵を襲う。
 葵は必死に七枝之剣で捌くが全ては捌ききれず、斬撃が葵の身体に真紅の線をつけていく。
「葵!」
 オレは思わず叫んだ。
 しかし、葵はオレの声に反応することはなかった。
作品名:鬼譚録 ~杠と柊~ 作家名:三木 尚也