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三木 尚也
三木 尚也
novelistID. 26150
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鬼譚録 ~杠と柊~

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 杠は半信半疑のようで包み紙をめくって一口食べた。
 その瞬間、杠はビクッ! と身体を震わせた。
 え、なに? アレルギーとか!?
「う……う……」
 まるで呻き声のような声を出す杠。
「どうした? まずかったのか?」
「う、う、うまーいーのーじゃ!!」
 呻き声から一転、雄叫びへと変わった。
 次はオレが杠の声にびっくりして身体がビクッ! と震えてしまった。
「これはなんという食べ物じゃ! このような物を食べたことは一度もないぞ! うまい、うますぎる! この肉汁がブワッと口の中で溢れる感じといったらもう絶品じゃ! で、なんという食べ物じゃ?」
 ハンバーガーの感想を一気にぶつけられ、面食らってしまった。
「あ、ああ、それはハンバーガーって言う食べ物だよ」
「はんばーがーとな! 初めて聞く名じゃ」
 と言い終わると、残りのハンバーガーをペロリッ! と食べてしまった。
「汝、もうはんばーがーはないのかや?」
「え、も、もう一つあるけど」
「くりゃれ!」
 飛びつくように杠はもう一つのハンバーガーを奪って行った。
 そのハンバーガーもあっという間に包み紙が剥ぎ取られている。
 オレには唖然に次ぐ唖然で何がなんやら分からなくなった。
「そういえば、汝、名を聞いておらんかったのう、なんと申す?」
「ああ、そういえばそうだったな、オレは七原(ななはら)真(まこと)だ」
「ふむ、ハンバーガー真だのう」
「ハンバーガーじゃねぇよ! 七原だ、七原!!」
「んふ、もふもふまくこきゅの」
「食べ終わってからしゃべれ!」
 杠は口の中のハンバーガーを飲み込むと、オレの目を真っ直ぐ見て一言。
「もうないのかや?」
「……もうないよ」
 物欲しげな顔をしている杠は再び川の方を見つけ始めた。
「まさかと思うが川の魚をまた捕まえようとか思ってるんじゃないよな?」
「ふむ、魚もいいが、やっぱりハンバーガーがいいのう」
 ハンバーガーの味を思い出すように目を閉じた。
 自分の世界へ入っていく杠を横目にオレは後ろの桜を見た。
 根元ではまだ若い人々が楽しく過ごしているようだった。
 その時。
「真!!」
 桜散る道を走ってくる人影が一人。
 人影の正体は……葵だった。
 葵は鬼のような形相で近寄って来た。
「真!! なんで逃げるのよ!!」
 近寄って来るなり大声で怒鳴った。
 耳が痛くなるような大音量だった。
「な、なんだよ葵! 別に逃げてなんかないだろう」
「逃げたでしょ! 部活の説明会から逃げたじゃない!」
「説明会ってあんなの説明会じゃなくてカルト教団の演説会じゃねぇか! それにオレはオカルトなんて興味ないんだよ!」
 葵は一転して穏やかな顔になり。
「大丈夫、今は興味なくてもすぐに大好きになるから」
 葵の穏やかな笑顔が恐ろしく見えた。
「だから、真。逃げた責任は取ってもらうからね」
 優しい声色がさらに怖かった。
「せ、責任ってなんだよ?」
「ふふふ」
 葵の笑い声。
「今日は帰さないからね」
葵は笑顔のまま、オレの首根っこを捕まえて強制連行していく。
「おい、まてよ!」
「聞こえなーい、聞かなーい」
 聞く耳を持たない葵に連れていかれる。
 杠は何が起こっているのかわからないという顔で騒動の一部始終を見ていた。
「何だかよく分からんがすごいのう……」
 杠は一人桜舞う河原に取り残された。

第三章
「で、なんでオレ達は夜中に山の中にいるんだよ?」
 宵闇の中、オレの声が響いた。
 前を進む葵は振り向き様に懐中電灯でオレを照らして答えた。
「だから、説明したでしょ? 説明会から逃げた罰よ」
「なんで罰で夜中の山に入んなきゃならんのだ!」
「さあ、先へ行きましょう。ぐずぐずしてると夜が明けちゃうわ」
「最近、よく無視される気がする……」
 どんどん先へ進んで行く葵を見失わないように追いかける。
 急に葵は何かを探すように周りを見渡す。
「なあ、何探してんだよ?」
「はあ、説明したでしょ?」
「そうだっけ?」
 呆れた顔をした葵。
「だから、ウチの神社に伝わる呪いの鏡を探しに来たんでしょ!」
「はぁ、またオカルトかよ……」
「ええ、オカルトよ! だから真も鏡を封印してる石碑を探しなさい」
 オレは葵の命令で石碑を探した。
 暗い闇の中、懐中電灯明かりのを頼りに辺りを探し続ける。
 夜空は新月なのか月がなく、無限の闇が広がっている。
 それに。
 山の中は少しも音が無い。異様な雰囲気だった。
「なあ、なんかおかしくないか?」
「え、そう? もしかして何か感じるの? 霊? もしかして霊?」
 と嬉しそうに騒ぐ葵。
 病気だな……。
「霊なんているわけねぇだろ。でも、なんか変だ」
 島の声も、虫の鳴き声も、風の音も、何も聞こえない。
 自然の音が、無い……。
「おい、もう戻ったほうが……」
「真! あったよ! 見て見て!」
 オレの声を遮って葵は喚起の声を上げた。
 葵の方を見ると、小さな石碑があった。
 高さ一メートルくらいの小さな石碑。
 石碑には何かが彫られているようだが風化していて、よくわからない。
 葵は何故かその石碑を動かそうとする。
「おい、何動かしてんだよ! その石碑って封印なんだろ! 封印解いちゃだめだろ!!」
「なに、真。びびってるの? あれだけオカルト信じてないって言ってたのに、信じる気になったの?」
「いや、ぜんぜん、まったく興味ない」
 葵はさらに石碑を動かそうとする。
「ちょっと待て、だから呪いとかヤバイからやめようぜ!! オカルトは信じないけど……」
「この鏡を見せて、オカルトは本当にあるって言うのを思い知らせてやる!!」
 ゆっくりと動き出す石碑。
「や、やめろって! 呪いの鏡なんだろ! 呪われるぞ!」
「私、真と一緒に呪われるなら本望よ!」
 さらに動く石碑。
「オレは嫌だ! 呪われてたまるか!!」
 オレは葵とは反対側から石碑を押して戻そうとした。
「ちょっと真、邪魔しないでよ!」
「バカ! オレは呪われたくないんだよ!」
「いいじゃない、私と一緒に呪われよ? ね?」
「嫌だ! もうお前呪われてるだろ! 絶っっっっっっ対何かにとり憑かれてるだろ!」
「あ」
 二人は同時に声を上げた。
 その声と共に石碑は倒れてしまった。
 無音の山の中、波紋のように響く音。
 今まで、石碑があった場所にはボロボロになった布に何かが包まれていた。
 葵は何のためらいもなくその包みを手にとった。
「お、おい、やめろって」
「ふふふ、大丈夫、大丈夫」
 布を取ると中には銅鏡が入っていた。
 銅鏡の裏には精巧な鬼の顔が深く彫り込まれていた。
 鬼の顔は怒り狂うように目尻が釣り上がっており、底知れぬ恐怖感を与えた。
「おお! 真、見てよ! 鬼の顔だよ! 顔!」
 葵は鏡の鬼の顔を見て喜んでいる。
「あったんだからもういいだろ? 早く元に戻せよ」
「えぇ〜、もっと楽しもうよ〜」
 楽しむって……お前の手にあるのは呪いの鏡だろうが……。
 葵は不満そうにオレを睨んだ。
「早くその呪いの鏡を戻して帰ろうぜ」
「え〜、ちょっと待ってよ。まだ鏡の部分見てないんだから!」
 その時。
「キィィィィィィィィン!」
作品名:鬼譚録 ~杠と柊~ 作家名:三木 尚也