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てっしゅう
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「神のいたずら」 第九章 失恋

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小野家と高橋家、早川と前島それぞれに挨拶をした。碧と弥生は直ぐに買い物に出かけた。残った6人はカフェでコーヒーを飲みながら話をした。

別れを惜しむように裕子はずっと碧の手を握っていた。そして駐車場から6人を乗せた車が見えなくなるまでずっと手を振って見送っていた。
「あなた・・・別れって辛いわね・・・仕方ないことだけど、あの子を・・・傍に置きたい・・・」そう言って裕子は夫の肩に顔をうずめた。
「無理を言うなよ・・・他所の子だよ碧ちゃんは・・・」
「あなたには解らないけど・・・あの子は・・・隼人なの」
「何を言っているんだ!しっかりしろよ。たとえそんな気がしても俺達は遠くで見守ってやるしかないんだよ。あの子の幸せを一番に考えたら、向こうのご両親と健やかに過ごすことが一番なんだよ。お前だってそのぐらい解っているだろう?」
「解っているから・・・解り過ぎるから、辛いの・・・手に入るんだったらどんなことをしても手に入れる。それが出来ないって解るから、諦めるしかないから、辛いんじゃないの・・・」
「そんなふうに感じていたのか・・・裕子、泣くな・・・二人で幸せに生きればいいじゃないか。まだまだ若いし、それに結衣だって居るし。ずっと泣いて暮らせないぞ・・・」
「うん、そうね・・・ありがとう。どうかしてた・・・ねえ?もう一日泊まってあなたと過ごしたい。二人だけで・・・いいでしょ?」
「そうだな・・・そういうことがあってもいいな」

恥ずかしそうに敏則は返事した。碧に言われたように夫婦はこんな時にこそ仲良くしなければ・・・そう思った裕子だった。


盆休みが終わって碧は部活が忙しくなった。秋の大会に床と平均台で参加することになったからだ。均整の取れたその容姿を生かして、何とか入賞を狙いたいと自分でも頑張っていた。気が付いたら肇とはもう一月ぐらい逢ってなかった。思いついたように家に帰ってから電話をかけた。

「もしもし、肇くん?久しぶりね・・・部活が忙しくて連絡出来なかったけど、元気してた?」
「碧・・・か。うん、元気してたよ。どうしたんだ電話なんかして」
「声が聞きたかったから・・・肇くんは聞きたくなかったの?」
「新学期が始まったら毎日顔を合わせるじゃない。そうは思わないよ」
「なんだ・・・淋しいこと言うのね。どこか遊びに行ったの?」
「行ったよ。家族で信州に」
「へえ、信州に行ったの!どこ?蓼科とか?白樺湖とかの辺?」
「違うよ。安曇野だよ。知ってる?」
「もちろんよ。わさびアイスクリームとか食べた?」
「よく知っているな碧は・・・食べたよ。美味しかった」
「じゃあ、上高地とかにも行ったの?」
「行かなかった。八方のロープウェイに乗ったよ。景色が良かった。涼しかったし」
「楽しかったのね・・・今度一緒に行きたいね」
「碧・・・話したい事があるから、学校始まったら時間作ってよ」
「うん、いいよ。じゃあ始業式の日は部活無いから、その日に話そうよ」
「解った・・・じゃあな」
「うん、また」

疑いもしなかったが、何の話がしたいのだろうとちょっと考えた。学校が始まるまであと一週間。部活を終了して、駅の前にあるコンビニに碧は立ち寄った。通りから外れた裏道を家に戻る途中に肇の自宅があった。何気なく見ていると、玄関から知らない女子が出てきた。手を振って見送っている肇の姿を見つけた。
「どういうこと?」頭の中でその言葉が繰り返し出てきた。

肇が玄関ドアーを閉めたのを確認して前を通り過ぎた。さっき出てきた女子は駅のほうに歩いていった。家に戻って考えていたが、どうもクラスの子じゃなかったからひょっとして親戚の従兄弟とか何かじゃないのかと思いたかった。姉に聞くと、それは怪しいよ、と言われ「肇くんがそんなことする訳無いよ」と反論したが、だんだん自信もなくなってきた。

学校が始まって始業式の日、裏にある公園で二人は話すことになった。
「ねえ?話って何?」
「・・・気を悪くするなよ。俺さ・・・新しい彼女が出来たんだ」
「今なんて言った?彼女?どう言う事!」
「碧のことずっと好きだったけど・・・頑張っても俺にはお前に勝てるものが無いってプレッシャーになってた」
「そんな事無いよ!肇くんに何か求めたりした?」
「ううん、そうじゃなかったけど・・・頭の悪い俺に自信が無かったんだ・・・良く行くコンビニで知り合った他の学校の女子と仲良くなったんだ。俺が勉強教えてやっているぐらいバカなんだけど・・・気が楽なんだよ」
「一週間ほど前に肇くんの家から出てきた子ね」
「なんだ見たのか!黙ってたりして・・・」
「親戚の子かと思ってたから。私のこともう嫌いになったの?」
「嫌いじゃないよ・・・でも、今までのように付き合えない。この間碧が見た日に、仲良くした。最後までじゃないけど・・・もう碧とは仲良く出来ない。ゴメン・・・俺のためにあんなことまでしてくれたのに」
「別れるっていうことね・・・碧が卒業までダメって言ったから嫌いになったのね・・・」
「それを言うなよ。そんなんじゃないから・・・その子とは成り行きだったんだ。向こうが積極的だったから、つい・・・」
「それで好きになったの?そういうことをしたから好きになったの?」
「違うよ・・・お互いに話してて気遣うことも無いし、その子も俺のこと好きって言ってくれたし。碧の事思い浮かんだけど、逢ってくれないし、忙しそうだったし、仕方なかったんだ」
「肇くんにとって仕方なかった程度なのね、私との付合いって・・・」
「好きな時間に逢えなきゃ、辛いだけだよ。卓球部も無くなって早く家に帰っちゃうし、碧は遅くまで練習していたし」
「碧が肇くんを淋しくさせてしまったのね・・・ゴメンなさい・・・ダメな女だったのね私は」

何が大切と聞かれて即座に愛情と答えている自分が相手に淋しさを感じさせていただなんて・・・失格だと思った。恋愛は理屈でするもんじゃない。好きだったら抱かれればいいし、どんなに言い寄られても嫌いな人とは話もしたくないだろうし。卒業までなんて期限作って、それが何の役に立ったのか。肇が勉強に集中出来ないなんて、押し付けがましい感情だった。心と身体の成長がうまく取れていなかったとしても、それはそれで大人になる過程だと思う。失敗して傷ついて人の悲しみや喜びが本当に解る・・・今碧は心からそう感じていた。

「肇くん・・・ありがとう。碧は思い上がっていた。これからはもっと謙虚になるよ。可愛い女でいるようにする。彼女と仲良くしてね・・・応援しているから」
「本当か?本当にそう思ってくれるのか?」
「うん、そう思ってるよ」
「碧も直ぐにいい人見つかるよ。綺麗だもの・・・この学校の誰よりも」
「嬉しいこと言ってくれるのね。肇くん、ちょっと大人になったね、フフフ・・・じゃあね。クラスでは今までどおりお話してね」
「ああ、そうするよ。じゃあな・・・元気で」

泣けてくるかと思ったが、涙は出なかった。自分に欠けているものが解ったことで、逆に感謝できた。次に出逢う人のためにもっと自分を磨かないと・・・いや、可愛く振舞わないといけないと反省した。