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てっしゅう
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「神のいたずら」 第九章 失恋

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夏休み期間中は毎日花火が打ち上げられ、大勢の観光客で遊園地は賑わっていた。ホテルのベランダから花火が良く見えた。午後9時を過ぎると先ほどの雑踏がウソのように静かな佇まいを見せる。初めて碧は早苗と一緒に風呂に入った。もちろん優もいた。裕子も一緒だ。肌に心地よく当たる夜風に少し海の香りがした。気のせいかも知れないが、早苗にはそう感じられた。

「裕子さん、ここは海に近いんですか?」
「ええ、目の前はもう河口ですよ。この辺りは輪中といって、木曽川と揖斐長良川(いびながらがわ)で出来た三角地なんです。この先上流に向かうと木曽三川(きそさんせん)公園があって、春先はいろんな花が咲いててとってもいいところなんです。隼人は遊園地が好きで小さい頃は良くここに来ました。きっと天から私たちのこと見ている気がします」
「そうですね、きっとそうですよ・・・人は死んだら天国に行くと聞きました。この世で頑張った者はより近道なんだとも」
「先生は信じておられるのですね・・・私は信じませんでしたが、隼人が亡くなってからは信じるようになりました。こうして話せるようになれたことも、皆さんのおかげです。本当に嬉しく思っています」
「碧ちゃんが声をかけるように言わなかったらご縁が無かったんですものね・・・」
「碧ちゃんが私どもに・・・あの東京での会合の時ですよね?」
「はい、そうです」
「先生が私どもに気遣っていただけたとばかり思っておりました・・・そうでしたか」

「早苗先生、何話していたの?」
「うん、あなたのことよ。ちょっと口が滑ってしまった・・・ゴメンなさい」
「何の事?」
「東京の会合であなたが裕子さんと話すように私に頼んだこと」
「そう・・・いいよ。気にしないから」
裕子が碧に声をかけた。

「碧ちゃん、お願いがあるの・・・聞いてくれる?」
「なんですか?話して下さい」
「今夜ね・・・私たちの部屋で寝てくれない?あなたと一緒にいたいの」
「いいよ・・・お風呂出たら着替え持って移るから」
「ありがとう」

裕子はただ碧が可愛くてそうしたかったのだろうか・・・

碧は露天風呂の隅で外の景色を立って見ていた。お尻からの上半身が後姿で裕子の目に入っていた。いつだったか隼人がまだ小学生の頃家族で行った温泉でも同じように隅で立って外をじっと眺めていた。「何見ているの?」と聴くと、「別に・・・気持ちいいから」と笑っていたことを思い出した。

「碧ちゃん、何見てるの?真っ暗なのに・・・」
「別に・・・気持ちいいから」そう返事した。裕子の方を振り向いて、にこっと笑った。
幼い頃の隼人の顔に見えた・・・
「隼人!・・・」その声は小さかったが碧の耳にしっかりと聞こえた。

「・・・なんて言ったの?碧だよ」
「ゴメンなさい・・・そうよね。忘れられないの・・・あなたに隼人の面影を見たの。ゴメンなさい・・・碧ちゃん・・・」
「裕子おばさん・・・話しておきたいことがあるの。驚かないで聞いてくれる?」
「何かしら・・・ここでいいの?」
「うん、この石に腰掛けて話せばのぼせないから・・・」
そう言ってちょこんと露天風呂を囲んでいる石に座った。裕子は足だけ湯につけて低めの石に腰掛けた。持っていたタオルを碧の大切な部分にそっとかけた。
「こうしないと・・・女の子だから・・・ね」
「ありがとう」屈託の無い表情に裕子は本当の娘のように可愛いと思った。

「お話って何?」
「碧事故で気を失ってからずっと意識が無かったの。目が覚める直前に、多分そうだろうと思うんだけど、夢の中に男の人が現れて、『優』って呼ぶの。『優じゃないよ、碧だよ』って答えると、『俺は高橋隼人って言うんだ。優に伝えてくれ、幸せになれって。それと母さんにすまないって伝えてくれ』そう言ったの・・・その人は消えてしまったけど目が覚めてその部分の記憶がとっても鮮明で、しばらくものが言えなかったの。早川先生に相談してやっと落ち着いたから、あの時先生に声をかけてもらったの。もっと早く言えばよかったね・・・」

碧の中の隼人は、考えて・・・考えて、そうウソをついた。

碧からそう話されて、すべての疑問が解けた裕子だった。
「そんなことがあったの・・・隼人は天国に行く前にあなたに思いを伝えたかったのね。同じ事故の犠牲者としてあなたに生きていて欲しかったのよ。自分の魂の分まで・・・」

碧はそれを聞いて、座っていた石から飛び降りて、裕子に抱きついた。
「話してよかった・・・碧もそう感じてたから。碧のこと知っている人はみんな変わったって言うの。昔のことが思い出せないからそうなんだって、としか考えなかったけど、自分の心の中にしっかりと隼人お兄ちゃんの魂が生きているかも知れないって思える」
「隼人・・・」裕子は何度も何度も強く碧を抱きしめながらそう言った。

これで自分と母親との絆が保てる・・・ウソも方便とは言うが、これほどついて良かったと思えるウソはなかった。

「裕子おばさん・・・この話は二人だけのことにして欲しいの。早川先生も今お付合いしている方がいて、幸せになろうとしてるから、面倒をかけたくないし、私の治療も終わったからあまり係わらないほうがいいって・・・優先生も隼人さんのこと忘れなきゃ、幸せになれないよ。だから、これからは碧だけで我慢して」
「碧ちゃんの言うとおりにするわ。みんな幸せにならないといけないものね。私から優ちゃんにはもう会わなくていい、と言うわ。辛いけどそうしなきゃいけなかったのよ。あなたが居てくれれば・・・幸せだから」

裕子の願いは碧の願いでもあった。こんな形でまた親子のように気持が繋がったことを嬉しく思った。
ハナミズキの花言葉のように、
『私の思いを受けて下さい』と碧は母親、いや高橋裕子にそう話したのだった。


優と早苗は碧が居なくなった部屋で布団に入りながら話をしていた。
「優ちゃん、話は明日言おうと思っているの?」
「はい、帰りの時の方がいいと思って・・・」
「そうよね・・・辛いこと言うんだものね」
「ええ、私も先方もそうだと思いますから」
「これからどうするの?直ぐに話があるって言う人とお付合いするの?」
「まだ解りません・・・先生は綺麗だしお医者さんだし、素敵な方たくさんいらしたんじゃないんですか?ご縁が無かったの?」
「清水さんじゃ不足って言うみたいに聞こえるわよ」
「そういう意味で言ったんじゃないですよ。今までどうだったのかなあって聞いただけですから」
「臆病になっていたの。中学三年のときに好きだった子と一度だけ抱き合って・・・次に逢えると思っていたら、事故で死んだの。精神的に落ち込んで・・・ずっと男性とお付合いできなかった。精神科の医師になろうと思ったのも、私のような人を救いたいと思ったから」
「そうでしたか・・・聞いてみないと解りませんね。気持が変わられたのは碧ちゃんとの出会いにも関係してるんですか?」
「それは大きいね。彼女は私にいろんなことを教えてくれた。治療していた時も、教えられたのは私の方だったかも知れないって・・・忘れかけていた純真な気持を思い出させてくれたような気がしてるの。あの子・・・本当に思ったまま言うでしょ?気付かされちゃうのよ」