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てっしゅう
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「神のいたずら」 第九章 失恋

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「遠まわしに言わないでよ。碧に解るように話して」
「経験してみないと解らない事よ。うまく言えないし、そんな事。楽しみに待ってればいいのよ・・・あと少しじゃないの?」
「肇くんとは卒業するまでしないよ。そう決めたの」
「あら!真面目な事言うのね・・・感心したわ。どうして?」
「今そういうことするとね、勉強が手に付かなくなるって思うから。ちゃんとした高校に入って欲しいし、出来ればお姉ちゃんのように早稲田とか目指して欲しいから」
「偉いね・・・碧もさすが成長したね。身体だけじゃなく、考え方も」
「本気でそう言ってる?だったら嬉しいけど」
「本気だよ。自分の欲望に勝っているからたいしたものよ。肇くんのことが好きなんだね、よく解るよ」
「うん・・・ありがとう」

さすがに姉だ。自分のことをよく理解してくれている。そう思った。


夏休みは直ぐにやってきた。今年は父親の秀之が由紀恵の実家に家族で行こうとお盆休みに計画していたが、碧は名古屋に行く予定にしていたので、大阪へは行けなくなった。変な話だが、母親の実家には記憶も無いし、行っても気を遣うだけで祖父や祖母とうまくコミュニケーションがとれずにいた。

約束は碧の方が早くしていたので、秀之は弥生と三人で向かうことにした。時期を同じくして、東京駅の新幹線ホームに優と早苗と碧は待ち合わせをして、下りののぞみ号に乗り込んだ。

珍しく碧はジーンズ姿をしていた。
「今日は碧ちゃん、いつものワンピースじゃないのね」
「早苗先生、朝まだ気になったから・・・ジーンズにしたの」
「そう・・・なるほど」
「それより、清水先生との事聞かせてよ。優先生も気になるでしょ?」
「そうね、聞かせて頂けるなら知りたいわね」
「ゴールデンウィークに初めて逢って、今は月に一度か二度逢ってるわよ。映画観たり、食事したり楽しませて頂いているの」
「清水先生ってどんな感じなの?」
「そうね、碧ちゃんが教えてくれた通りの方ね。真面目で優しい方よ」
「ふ〜ん・・・じゃあ、真面目に交際してるんだね・・・今のところ」
「ええ、もちろんそうよ」
「結婚してもいいなあって思う?」
「まだそこまで思わないけど、家庭と仕事がうまくかみ合えば、考えてもいいわね」
「仕事辞めて、奥さんになるって言うことは無理なの?」
「そうね・・・赤ちゃんが出来たらそうしようって思えるかもしれないけど、仕事も辞めたくないからね難しいね」
「子供はママにいつも傍にいて欲しいよ・・・いつどんなことがあるかも知れないから・・・離れていちゃダメだって碧は思う」
「そう思える日が来るといいけど・・・両立させてこそ女として意味があるって考えてるの」
「碧もそう思ってたけど・・・母親って立派な仕事だよ。こんな時代に子供を一人前に育てるって、並大抵じゃないよ。誇れると思うけど・・・」

この子は中学二年の少女だと誰が思うだろうか、この会話を聞いたら。早苗はともかく、優は感心して聞くだけになっていた。

「優さんも結婚の事は考えられているのよね?確か今年26歳になるんですよね?」
「はい、先生・・・実はその事なんですが、来年に結婚しようって考えているんです。まだ誰にも話していませんが、お話しがあるんです」
「先生!それって本当ですか?」そんな気配を感じさせなかったから碧は驚いてしまった。

「碧ちゃん・・・決まっているわけじゃないのよ。好きな人が出来た訳でもないの。ご紹介してくださる方が居るの、詳しくはまだ言えないけど」
「じゃあ、高橋の家に行くのはこれが最後なんだね」
「そうなるわね・・・一人で言い出せなくて早苗先生まで頼んじゃったこと許してね」
「やっぱりそうか・・・ママが話していたことと同じになった」
「碧ちゃんのお母様そんな事仰ったの?」
「うん、早苗先生を誘われたのはそのことを話したかったためだって・・・」
「そうだったの・・・早苗先生勝手言ってすみません。力になって下さい、お願いします」
「優さん、構いませんよ。普通なら話さないのに、わざわざ名古屋まで出かけるお気持ちに、応えなくちゃね。私などで役に立つのならお力添えしますよ」
「ありがとうございます。良かった・・・安心出来ました」
「なんか優先生が行かなくなったら、碧も行けなくなりそう。高橋さん寂しがるだろうなあ・・・」

「碧ちゃん、それは仕方のないことなのよ。他人なんだから・・・優さんはね」
「解かっているよ。でも私は・・・他人じゃないよ。一人でも行くから」
「気持ちは高橋さんも嬉しいだろうけど、一人で来させるほど無責任な方たちじゃないからもう少し大人になるまで待たなきゃいけないね」

早苗が言った「もう少し大人になるまで」は碧には無かった。この時は「うん」と返事したが、碧の運命はそれを許さなかった。優も早苗もまさかの事態が直ぐそこまで足音を忍ばせているとは及びもつかなかった。

前回と同じように名古屋駅のホームには高橋夫婦が碧たちの到着を首を長くして待っていた。列車の扉が開き出てきた姿を見つけると、「碧ちゃ〜ん!」そう裕子は声をかけた。優や早苗の目もはばからずに、碧は荷物を投げ出して抱きついた。

「来たよ・・・また会えたね」
「うん、大きくなったね!背も高くなってるし、女の子らしくなった。嬉しいよ・・・」
「ご無沙汰をしております」早苗はそう挨拶をした。

「先生、今日はわざわざありがとうございました。お目にかかれて嬉しいです。まずは自宅まで起こし下さい」
裕子に促されて、車に乗り込み自宅に向かった。仏前に手を合わせその後、三人は居間で寛いでいた。

「お寺様が見えられたらお墓参りに行って、それから食事を済ませて、お宿まで案内します。ゆっくり寛いで頂きたいから、私たちも一緒に温泉宿を予約しましたの」
「そうですか・・・それは楽しみです。どちらのお宿ですか?」
「先生ご存知かしら・・・長島温泉の花水木です」
「存じあげませんけど、近くですか?」
「車で・・・30分ほどです。高速降りて目の前ですから、便利なんですよ。大きな遊園地もありますし、ショッピングセンターもありますから時間つぶせますよ」
「碧は知ってるよ。ホワイトサイクロンがあるところだから」
「来たことがあるの?親戚でも住んでおられるのかしら」
「有名な所だから、知っているだけだよ」
「そう・・・なんでも知っているのね碧ちゃんは」裕子は物知りの碧に感心した。

「じゃあ、明日はジェットコースターに乗らないとね」優は誘うようにそう言った。
「うん、一緒に乗ろう。早苗先生もね?」
「私も乗るの?」
「当たり前だよ!三人一緒だから」

墓参りを済ませて、敏則の運転する車で5人は高速を走って長島インターを降り川沿いにある一際大きなホテルへと入っていった。吹き抜けの素晴らしいロビーが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ・・・本日はようこそお越し下さいました」しっかりと教育された従業員のもてなしも気持ちが良かった。