絵画レビュー
アルベルト・カイプ「釣り師と牛のいる風景」
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夕暮れ時、世界は金属的になる。まず、光の色が金や鉄の錆を連想させる。そのことによって、空間自体が金属的な硬さを備えたかのように思われる。そして、世界は刃物(金属製)のような鋭さをもって、我々の感性に迫ってくる。
そのような世界の侵攻を前にして牛や帆船は耐え切ることができるのだろうか。この絵では、牛などはもはや戦うことを放棄している。むしろ、世界の中に埋没することを望んでいるかのようだ。空を大方覆い尽くした雲だけが、無言のまま世界の夕暮れに抵抗している。
このような風景を私はこれまで見たことがないし、これからも見ることはないだろう。だが、作者は実際にこのような風景を見たのかもしれない。作者の経験した風景が絵に描かれることで、私もまた作者の経験を経験することができる。作者の時間と私の時間が絵において交わる。そして、私とカイプの時間が交わるのは、もはや絵においてしかありえないのだ。