絵画レビュー
ブラック「ギターとグラス」
http://www.kmm.nl/object/KM%20109.172/Guitar-and-glass?artist=Georges Braque (1882 - 1963)&characteristic=&characteristic_type=&van=0&tot=0&start=0&fromsearch=1
キュビスムは対象を様々な角度から分析した。だから、ブラックの作品には、彼自身の複数の視線が織り込まれているかのようだ。その時々の全く別々で両立しえない、複数の視線が一つの画布の上にまとめられる。だが、私がこの作品を見て感じるのは、むしろブラックは見ているのではなく見られているのではないか、ということだ。両立するはずのない、彼の過去の様々な視点が、作品の中に集積され、それが多数の他者の視点としてブラックを見返しているのではないか。
自己が視点を変えていくことで、前に持っていた視点を一つずつ他なる自我として遺していくこと。統一を拒む複数の自我が画布の上に両立し、それらがとりどりの視線で描く者を見返す。自ら作り出した視線という刃が自らに返され、無数の刃で滅多斬にされること。ブラックは、単に対象を分析する快楽だけではなく、自らが構成した複数の他なる自我の視線により斬られる快楽も感じていたのではないだろうか。