絵画レビュー
カミーユ・コロー「Orpheus Leading Eurydice from the Underground」
http://blog-imgs-23-origin.fc2.com/a/l/b/albatros2/cor05.jpg
微風が吹いていて葉がわずかに揺れている、そう思わせる微妙なタッチだ。木や葉、人物は、空気の中に透明に溶けていってしまいそうである。事物がすべていったん空気の中に溶けて、再び形と色を取り戻す。そのような過程を何度か反復した後に、奇跡的に獲得された繊細な形象であるように思われる。
この絵においては、空間の抵抗があまりにも少ないので、遠くのものも近くのものも瞬時に入れ替えが可能であるかのようだ。視点を動かせば、それに応じた風景が瞬時に調達される。また、すべてのものを自由に配置換えすることも可能であるかのようだ。この絵の空間はあまりにもさらさらしている。
地下から妻を連れ出してきたオルフェウスの心情もまた、一茎の植物のように思われる。森の他の植物と親和して、何気なく咲いている。何気なく咲いているのだが、よく眼を凝らしてみるととてつもなく緊迫しているのだ。コローはオルフェウスの心情を植物の中に隠した。だが、暗闇の中の光がひときわ目立つように、植物の温和な心情に隠されたオルフェウスの心情は、燃え立ち、ひときわ目立つのである。