思いやり
店の従業員が来たので、飲み物などを注文した。
「爆弾発言をするよ」
「怖いわね。どんなこと?」
「きみは結婚をすると、まだ誰にも云ってないよね。それとも、誰かに云ったの?」
「云ってないけど、両親には近いうちに会ってもらいたいひとが居るって、云ったわ。秀人さんは?」
「まだ、誰にも云ってないよ。来年の春ということは、遅くてもあと四箇月だね。無理じゃないかな。だから、秋にしようか」
「それは構わないけど、春って云ったのは、秀人さんじゃない」
「そうだけどね。美羽ちゃんは若いからね。もう少し青春を謳歌するべきだと思うんだ」
「今、この瞬間に謳歌してるよ」
そう云うと、美羽は右手で堀川の左手を覆った。堀川は美羽のやわらかくて小さな温かいその手を握った。
お通しと中生が来た。気のせいか若い男の従業員は、少し慌てたような表情だった。
「若い男は会社にたくさん居るよ。彼らがどんな連中なのか、もう少し把握しておくべきかも知れないよ」
堀川は生ビールを三分の一程飲んでから云った。