思いやり
「何よ。わかんない。何を云いたいの?」
「早く子供ができたりすると、わたしの青春を返して欲しい、みたいなことを云われないかと思ってね、心配なんだ」
「そんなこと、云わないわよ。取り越し苦労だわ」
美羽はそう云いながらも笑顔のままである。
「そうかな。育児ノイローゼになったりすると、そういうことを云い出すって、この前ラジオで聞いたんだ」
「大丈夫よ。秀人さんのお母様は気さくなかたなんでしょう。しっかりと指導を受けるから、育児ノイローゼにはならないわよ」
「そうかな?だったら春でもいいのかな」
「問題は結婚式場ね。一流のところじゃなくてもいいから、明日にでも探してみましょうね」
「そうだね。そうしてみよう」
どうやら雪が本降りになったらしい。眼下のイルミネーションの光が弱くなった。
「やっぱり、明日は自宅待機よ。大事なひとが転んで怪我したら困るから……」
「明日は雪ダルマを作って、雪合戦をしよう」
「いいわね。青春を謳歌しないとね」
美羽は堀川の左腕にしがみつき、彼の肩に頭を預けた。堀川は彼女にキスをしようとしたが、うまく行かなかった。堀川の耳に触れている美羽の髪は、微かに濡れているような感覚が生じた。
了